花幻想



皆からの私への第一印象の大抵は話しにくそう。正直、好意的に見られたことはない。私自身、そんなつもりはないのだけれど、他人から見る私への印象はそうらしい。と、第一印象など解せずに、私に話しかけた子が言った。
そんなことを思い出しながら、私は自身の所属する環境委員とやらの仕事である、植物への水やりを行っていた。
私は昔から植物を愛でるのは好きだったので、自らこの委員に入ったのだ。だが思った通り、委員の人間とも必要最低限のことしか話せず、こうして一人、静かに植物相手に向かっているのだ。



「話し掛けづらい…か」



確かに私は自分から積極的に誰かに話しかける方ではない。それに人と話すのは得意というわけではない。だが、話し掛けづらいとはっきり言われると、少々へこみもする。



「…私自身に問題があるんだろうなぁ」



はぁ、とため息を付き、目の前に咲く花を見つめた。赤く色付き、ゆらゆらと風に揺れるそれは小さくも美しく、見ていると心が癒されていくようだった。



「おや…」



すぐ近くから、芝生を踏む音と共に声が耳に届いた。いきなりだったので少し驚いたが、ゆっくりとした動作で音のした方を向いた。



「ま、松永先生…」



そこに立っていたのは松永先生だった。校舎内で極稀に見かけたことはあるが、あまり面識がないため、私は動揺を隠せなかった。そんな私を他所に、松永先生の方はただただじっと花壇の花を見つめていた。



「…花に興味があるのかね」

「へ?あ…は、はい」

「そうか」



質問の際も私の方を見ず、松永先生は花壇の前にしゃがみこんだ。そして目の前にある葉を指で触れ、目を細目ながら口許に笑みを浮かべていた。私はその一連の行動を、ジョウロを片手にどうしたものかと見つめていた。
……一応2年間、私はこの学校で過ごしているわけだが、この人とは過去一度も話したことがない。実のところ、この人が何をしていてるのかさえも未だによく知らない。ただ、この学校の教師であり、名前は松永ということだけははっきりしていた。



「卿は、匂菫を知っているかね」

「匂菫…ですか…?」



突然の質問に一瞬狼狽えたが、はいと返事をすれば、また「そうか」と返ってきた。そこでまた、この場に沈黙が流れた。
その間、私は彼は一体何の為にこの場にいるのだろうかという疑問が頭を巡っていた。



「匂菫は、卿に良く似合う」

「…え」

「…匂菫の花言葉は知っているかね」

「い、いえ…そこまでは…」



私は彼の意図が良くわからずにいた。花の名前や種類程度なら解るが、花言葉まではよく知らない。
そんな困惑した表情を見て、彼は喉でくつりと笑いながら、花壇の前から立ち上がった。



「思慮深い、控えた美しさ」

「……は」

「他人の評価に耳を傾ける事はない」

「先生…?」

「卿はそのままでいるといい」



そう言いながら松永先生は私の髪を手で掬い取り、耳に掛けた。
私が悩んでいたことを言い当てたこともそうだが、そのようなことを言われるなんて思ってもみなかった。



「名前と言ったか」

「え、なんで名前…」

「2年間、花の世話をしていただろう」

「あ…」

「卿のひたむきさに、感慨を受けたのだよ」



松永先生は笑みを浮かべながら、何かを懐かしむように私を見ていた。
そんな彼の様子は私の目には妙なものに映っていた。いきなり現れたかと思えば、匂菫が似合うと言い、私の悩んでいたことまでも言い当てる。未だにその意図、行動が理解できない。その事が、彼にもわかっていたようで、また喉を振るわせ笑った。



「なに、ただの戯れ言だ。卿はまた、花を愛でるといい」



ではまた、そう言い残し、彼はその場から立ち去った。一体彼はなんなのだろうか。今の私には到底理解の及ばないことだ。
だがひとつだけ、これだけはわかる。松永先生は私を元気付けようとしてくれていたということが。
遠回しで分かりにくいものではあったが、きっとそうなのだと思う。



「ありがとう、ございます」



既に見えなくなった、彼の消えた方へ頭を下げて礼を告げた。
先生と話して、気が楽になった気がした。





(次に逢う時には、また控え目で優しい笑みを"魅せて"くれることを楽しみにしているよ)



*****
初の夢が松永さん。見事に玉砕。
話の内容は最早よくわからないという。
(111224)



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