人形劇は繰り返す



昔から私は同学年の子達より大人びていた。
私自身、元々自己主張するタイプでもなかったし、どちらかというと、一人で本を読んでいたりするようなタイプだった。

だからといって、別に友人がいないだとか、そういうわけではなかった。
小学校の時から、笑えば友人が出来ることも、大人に可愛がられることもなんとなく知っていた。

だから、大人しいタイプではあったけど、誰からも慕われていたし、信用もされていた。


ただ私は幼い頃から、ずっとそうして自分の思いを胸の奥にしまって笑っていた。



「疲れたなー…ほんと…」



けど時々、そんな、自分を偽り続けることに疲れてしまう。



――…本当はこんな自分が嫌で、誰も私を知らない高校に入った。自分を偽らず、自分が自分らしくあれるようにと。

だが、どうやら私の、長らく染み付いていた習慣…いや、癖はどうしようもなかったらしい。


結局、今までと同じように笑って自分を偽ってしまった。そのままずるずるとその癖を変えられないまま半年が経った。



「私、ホント馬鹿みたい」



偽り続けることは自分を追い詰めるだけと知りながら、でも、私は自分の体裁を気にして、こうなってしまった。

やはり私は変わろうなんて、到底無理な話だったのだ。



「あ……瀬く…、…」



かなり近くで誰かの話し声が聞こえてきた。

私が今みたいに気を抜くときはいつも校舎の裏庭にいる。普段は先生が植物を育てたりしているので、人が来ることはほとんどないのだ。

つまり、人の声が耳を済ませばよく聞こえてくる。

特に興味は無かったけれど、なんともなしにその声を聞いてみることにした。



「わ、私…あなたのこと好きなんです!」

「あー…そうっスか」

「それで私…あの」



…どうやらこれは、私が聞いていてはマズイ話のようだ。しかし私にも好奇心と言うものはある。
せめて相手が誰なのかぐらい確かめようと思いはしたが、やはりやめた。

よくよく考えたら、相手なんてわかりきっていた。半年の間、定期的に聞いていた声。そして、ここまでモテる人間と言えばこの学校に一人しかいない。
相手はまた、モデルの黄瀬涼太だ。



「気持ちは嬉しいけど、…気持ちには応えらんないっスわ」



そしてまた、いつものように黄瀬は女の子の告白を断る。過去数回、この場面に遭遇したけれど、毎回ああやって断っている。飽きもせずによくやる。

女の子の方はと言えば、今回はどうやら泣き出したようだ。微かに嗚咽のようなものが聞こえたから。
それを慰めるように話す黄瀬の声のトーンは本当に申し訳なさそうで、しばらくして女の子の方も落ち着き始めたようだ。


更にそのまま聞いていると、女の子はその場から立ち去っていったようだ。足音も遠退いていくのがわかった。

…さて、私もそろそろ帰ろうか。



「…でもまだ、足音が消えてないな」



女の子の足音はなくなったが、まだ黄瀬がいるはずだ。だとすると、私は帰るに帰れない。帰るには黄瀬がいる場所を通るか、目の前にある植物栽培をしている教員がいる理科準備室を通るしか術がない。

理科準備室を通れば問題ないが、話し声で黄瀬が気付く可能性がある。


…まあ、別に気が付かれたところで私は悪くないわけだが。

本当に、どうしようか。



「…どいつもこいつも…顔だけで選んでんじゃねーよバカ女共」



今、妙な発言が聞こえた。
それは確かに黄瀬の声で、今まで聞いてきたどの黄瀬とも違う、黄瀬の声だった。

一瞬心臓が跳ねたけれど、何故か私はその言葉に安心していた。



「……あんた、今の聞いてた?」

「!」



振り返ると、つい先程からの声の主である黄瀬が校舎の壁に手をついて私の方を見ていた。



「…ごめんね、聞くつもりなかったんだけど」

「そうっスか」

「今のは聞かなかったことにするから!じゃあ失礼します」



いつもみたいに、出来るだけ申し訳なさトーンで、申し訳なさそうに笑って、黄瀬の横を通ろうとした。

だが、予想通り通してはくれなかった。



「あの、黄瀬くん?」

「…あんたさ、確か名字だっけ?」

「そう、だけど。…なんで名前を?」



掴まれた左手が痛い。それよりも今は、黄瀬のその、私を見透すようなその目が痛い。



「…同じ臭いしてたんスよね」

「なんのこと言って…」

「あんたも俺と同じなんだろ?…さっきの女に対して、バカだって思ってた」

「……」



黄瀬のその発言に言葉をなくした。

それはそうだ。私もバカだと思っていたのだから。
今まで黄瀬に告白していた相手もそうだった。話を聞いていると、みんな一目惚れだとか、そんな感じばかり。

全員、顔しかみていない、本質を見抜くことさえできないバカばかりだと思っていた。



「あんたの話、時々聞いてたんスよ。バカな女共から優しいだとかいつもにこにこしてるって話を」

「……」

「それで俺、あんたのこと見てたけどやっぱりそうだった」

「やっぱりって…なにが?」

「無理矢理笑顔作ってるみたいっスよ、あんた」



思わず唾を飲み込んだ。まさか、私が自分を偽って周りによく見せようだとか、そんな風に装っていたのがバレるなんて。

だけど何故だろう、私はそれさえもどこか冷静に受け止めていた。



「…黄瀬の笑顔も、大概嘘臭いけど?」

「はっ、…アンタもそういう性格だったんスね、やっぱり」

「今更、隠したところでどうにかなるわけでもない。ならとっとと素を出した方が賢明でしょ?」



それに、あんたも私と同じなんでしょう。と付け加えると、黄瀬は薄く笑った。



「そりゃそうっスわ。だから俺も弁解せずに、こうして話してるわけだし」

「…いい性格してんね、あんた」

「あんたもね」



そしてお互い、微かに笑ったあと、また作り笑いをする。



「折角の出会いだし、一緒に帰らないっスか"名字さん"?」

「私なんかと一緒でいいの?"黄瀬くん"」

「しばらくは、名字さんと一緒にいた方が面白いかなーって思ったんで」

「それは同感かな」





人形劇は繰り返す




きっとあの発言を聞いて安心したのは、なんとなく彼は、私と同じだと思っていたから。

そして、仲間がいたという、安心感からだったんだろう。




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まとまらなかった。ただゲスい黄瀬が書きたかっただけなんですよね。
(130105)



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