旁の嗜み
昨日もクラスメイトが教室に入ってくる直前に、明日も待っていると言われてしまった。昨日までの私なら、そんなまさかと思っていた。だけど流石にもうそんなことは思わない。多分、いや、絶対にいる。
ならば、今日は教室に近寄らなければいい話なのだ。昨日の敗因は教室の側まで行ってしまったから見付かったのだ。だから今日は中庭で、普段は二番目に早く登校してくるクラスメイトが来るまで避難することにした。
と言うわけで、中庭に来た。
「おはよう、名字さん」
「お…っはよう、ございます…」
何故か、先にそこにいた。
「な、なんでここに…っ」
「きっと今日は教室にまで来ないだろうなと思って先手を打ってみた」
「………」
全く意味がわからない。仮に教室に行かないのは読まれたとしても、何故中庭に行くと予想を付けられたのかさっぱりわからない。本当になんなのこの人。これから私、この人のこと心の中で魔王って呼ぼう。怖いもんこの人。
「今日はいい天気だな」
「そ、そうですね…」
「朝の空気を吸うならやはり中庭が一番良いな」
「…そう、ですね」
「特にこういう、人が殆どいない時間は落ち着く」
「…ソウデスネ」
「ところで名字さん。…残念だったな、逃げられなくて」
今日もあの笑み。もう流石にわかった。赤司くんは私で遊んでいる。そうとしか考えられない。絶対にいい遊び道具が出来たとか思っているんだ。
……でもきっと、そのうち飽きる。それならもう、飽きるまでそれに付き合うしかない。それに、こうして構ってくるのもテスト前で朝の部活が停止になっている間だけだろう。
「もう、明日からは逃げない、ですよ」
「なんだ、もう諦めたのか?」
「…赤司くん、私が逃げるの、楽しみにしてるみたい、です、し」
「バレたか」
「さ、流石に…わかり、ます」
「僕もそろそろバレていると思っていたところだ」
「なら一体どう…………また、遊んでますよね」
「ははっ、よくわかったな」
思わず横にあった壁を叩いてしまった。また遊ばれてる…っ!
「つくづく、人をからかうのは楽しいと思うよ」
「……赤司くん、本当は…性格悪…」
「なにか言ったかな?」
「ナンデモナイデス」
口許に指を当て、相変わらずクスクス笑う赤司くんのこの状況に、ほんの少しだけ慣れた自分にまた今日も溜め息が漏れた。
「もう…教室に行きます…」
「なら僕も戻ろう」
「な、……いや、もういいです…」
きっと何を言っても上手くかわされて、また遊ばれるに決まっているのだ。なのでもう大人しくしていることにした。
だけど案の定、教室に戻っても赤司くんはなにかしら話すわけで、本当にこの人が なにを考えているのかさっぱりわからなかった。
+++
「征ちゃん、朝に中庭で見たわよ。あなたと女の子」
「ああ、行動が挙動不審でなかなか面白いよ」
「もう…あんまり遊んだら可哀想よ?」
「多分大丈夫だろう」
「……それにしても、征ちゃんも物好きね。わざわざあんな朝早くに登校するなんて」
「普段あの時間は朝練だからな…。あの時間に学校にいないと落ち着かないんだ」
「ほんっと律儀ね」
「…まあなんにせよ、一度彼女と話してみたかったし丁度よかったと思うよ」
「あら、話してみたかったの?」
「僕にはああいう、いつも一人でいる女性がどういう精神をしているのかわからないんだ。特に女性はグループとやらに入らないと大変だと聞いた。だから色々と聞いてみたい」
「まさかそんな理由だったとは思わなかったわ」
「折角の機会だったし、もう少し遊ぶことにした」
「そ、そう…ほどほどにね?」
突然くしゃみがでたけど、まさか私の噂をされているとは夢にも思わなかった。
(141226)