※夢主(審神者)を想う鳴狐




















「鳴狐」


凛とした声が自分の名前を呼んだ。後ろを振り返ると、自分の目線より少し低いところに主の顔があった。


「今日も遠征部隊の隊長、お願い出来る?」


首を縦に振り、肯定の意思を見せる。すると安心したように微笑む主。


「よかった。じゃあ、部隊の構成はあとで伝えるから」


主は急ぎ足で何処かへ向かう。たぶん自分の部屋で、今の近侍と相談するんだろう。それが誰なのかは知らない。最近は全く戦闘をしていない。戦うために生まれた刀であったはずなのに、それをしないのは少し不思議な気持ちだ。…とはいっても一月前までは他の刀剣と同じように、むしろ第一線で戦い続けていた。では何故、今は戦わないのか。恐らく、瀕死の重傷を負ったことが原因だろう。薄れゆく意識の中で、今まで見たことがないくらい取り乱す主を見た…気がした。それから2日間の暇を貰うと、いつの間にか遠征部隊の隊長という位置付けになっていた。


「鳴狐、旅の準備を致しましょう」

「そうだね」


不満はない。ただ、自分がいたはずの主の隣に他の誰かがいるところを見るのは余り好きではない。


本丸には1人一部屋与えられている。主に決められた部屋で遠征の準備をする。今回はかなり長い遠征になりそうだ。必要な物を揃えて部屋を出ようとすると、少し控えめに襖が開いた。


「鳴狐…ちょっと、いいかな」


主だった。襖を開き、部屋の中へと入るように促す。少し俯いている主は、どこか不安そうな表情をしている。


「ごめんね、突然」


首を横に振り、迷惑なんかではないということを伝える。すると主は微笑んだ。


「遠征は慣れた?」

「うん」

「そっか、…今回は今までよりも長いけど…大丈夫?」

「平気」


そう返事をすると主は黙ってしまった。下ろされた手は震えているような気もする。


「主…、大丈夫?」

「私は…大丈夫じゃないよ…」


主の声は震えている。どうしてだろう。遠征に行くのは主ではないし、戦闘ではないから負傷する心配もないのに。


「また鳴狐が、どこかへ行っちゃいそうで…」


"また"?どういう意味だろう。自分の中では、ずっと主の側にいて仕えてきたはずなのに。頭の中で思考を巡らせていると、主に手を取られる。感触を確かめるように手に触れる主。


「…あのね、鳴狐には言ってないけど、貴方は一度刀が折れてしまう程の怪我を負ったの」


目線を下げて、そう言った主。そこまで重傷を負ったなんて、知らなかった。主はそんな感情に気がついたようで、さらに続ける。


「でも…私が持たせたお守りが、貴方を守ってくれたの」

「お守り…」


主が触れていた手をそっと動かし、ズボンのポケットへと手を触れさせる。


「お守りは、いつもここに入れてたよ」


恐らく、破壊される前はそうしていたのだろう。


「前のはもうぼろぼろなはずだから、これを持って行って」


主は懐からお守りを出す。綺麗な布で覆われた、お守り。それを受け取って手のひらに乗せる。


「ありがとう」

「うん、今度は大事にしてね」


もう話は終わりだろうか。そう思って準備を整えた荷物を持ち、部屋を出ようとする。しかし主に呼び止められた。


「鳴狐」


振り向くと主は微笑んでいた。


「いってらっしゃい。気をつけてね」

「いってきます」











































拍手夢は以上です。読んでいただき、ありがとうございました!

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