【最期まで動き続けるという病】の続きです。








































刀同士がぶつかり合う音。何かが崩れ落ちる音。戦場特有の血生臭い匂い。敵か味方か、どちらのものかもわからない叫び声。それらが飛び交う中、最期に見たのはずっとずっと見続けてきた背中だった。





































ずきりと何処かが痛んだ。何処だかはわからないほど、体中が痛い。ゆっくりと目を開けると、見覚えのある天井が見えた。体を起こそうとするが、上手く言うことをきいてくれない。かろうじて動いた左手を動かしてみる。すると何かあたたかいものに触れた。それは人の手のようだった。


「咲子…?」


思ったよりも掠れて頼りない声が出た。俺が想像していたよりも、ずっと長く眠っていたのかもしれない。自分の声は彼女に届かないようで、俺は手を動かしてその手に触れた。手に触れるとそのあたたかい手が微かに動き、やがてさらさらと落ちる髪の間から彼女の顔が見えた。



「しし …おう……?」


彼女は目を大きく見開いて、震える声を出した。俺が眠っている間、ついていてくれたのだろうか。彼女は震える手で俺の手を握った。


「獅子王…目が覚めたの…?」

「…ああ」

「よかった…ほんとによかった…」


彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。陽の光を浴びて、とても綺麗だった。


「なんで泣いてんだよ」

「うれ…嬉しくて…獅子王、ずっと目開けなくて…」


ぐすぐすと泣きじゃくる咲子。こんな姿は見たことがなくて。俺はどれだけ迷惑を掛けたのだろうかと思う。…そして、1つ気になることがあった。


「なあ」

「なあに?」

「鳴狐は?」


表情が、空気が、固まった。その咲子の表情だけで、俺の見た光景は夢なんかじゃなかったのだとわかってしまった。…でも、信じたくなくて。


「なあ、…いるんだろ?鳴狐…」

「…獅子王」

「呼んでくれよ。…俺が眠っていた間の、部隊の様子を聞きたいんだ」


痛みも忘れて起き上がる。咲子にすがるように、肩をつかむ。


「獅子王、ちゃんと聞いて」


凛とした咲子の声。瞳には涙。


「鳴狐は…鳴狐は、もういないの」


声が出なかった。鳴狐はもういない?嘘だろ。またそんなこと言って俺をからかってるんだろ。俺驚かせたいんだろ?なあ、嘘だろ…?


「鳴狐は、皆を守ってくれたの。…だから」

「違う…だろ……」


違う、違う。そうじゃない。だって俺は覚えている。俺の前で、俺が倒れている前で敵を斬り伏せていた鳴狐の姿を。どんなに多くの敵がいても、俺たちが遠くを離れるまでその場を守り続けた鳴狐を。


「鳴狐は……俺を守って死んだんだろ…?」

「獅子王、落ち着いて…違うの」

「俺が…!咲子の命令を聞いていれば、1人で無理しなければ…鳴狐は……」


死なずに済んだんだ。俺が、隊長になって浮かれて。自惚れて。1番強いと思い込んで。そんなことしなければ、鳴狐は死ななかったんだ。


「俺のせいで…!」

「獅子王、落ち着いて…傷が開いちゃう…!」


咲子が俺を寝かせようとする。俺のせいで。俺のせいで。…また、守れなかったんだ。


「1人に…1人してくれ…!」

「獅子王……」


咲子の目にはまた涙が浮かんでいた。咲子が何か言ってたけど、返事をする気にはなれなかった。襖が閉まる音がする。静かになる部屋の中。目を閉じれば蘇る記憶。咲子に体をもらって、今までの記憶を引き継いだまま生きてきて。仲間もたくさんいて、その中で俺は部隊長を任されて。歴史修正主義者を討伐する日々が続いて、いつか…いつか目的を達成したら、平和な世界になったら…なんて話もして。昔の主の話をしたこともあった。皆色々抱えていたけど、前向きで。


「でも…鳴狐は…」


1人の仲間を失った。1部隊になったばかりの、仲間を。部隊長としての自覚が足りなかった。せっかく、俺に任せてくれたのに。俺のせいで。行き場のない怒りを拳に込めて、叩きつける。何度も何度も、何度も。傷が開いたって、血まみれになったって、構わない。これから先の未来に期待なんて…希望なんて持てなかった。































歩いて歩いて、
そして見失った

(目が覚めたら、)
(あの声が聞きたいなあ)

































あとがき

続きを書かせていただきました。どうしても書きたいと思っていましたので、公開することが出来て良かったです。


2015年02月07日 羽月



back