もしも政府によって審神者と刀剣の恋愛が禁止されていたら。
私はこの縁側が好きだ。本丸はどこも過ごしやすいけれど、この夕陽が落ちる間際の縁側が好き。何もせずに、ただ外を眺めて過ごす。審神者になってからだいぶ時は経ったけれど、この習慣だけはやめられない。
「…主」
静かで落ち着いた声が私の耳に入ってくる。後ろを振り向くと、夕日に輝く銀色が見えた。今は供の狐は連れていないようだ。
「鳴狐、どうしたの?」
鳴狐は一度私と目を合わせたけど、そのまま目を伏せてしまう。何か言いたいことはわかるけど、話しづらいのだろう。
「とりあえず、座りなよ」
鳴狐は微かにこくりと頷き、隣に座った。でもその距離が異様に近い。腕がぴったりくっつくくらい。鳴狐の方を見ると私の方をじっと見ていた。ばっちりと目が合ってしまうと、逸らすに逸らせない。
「…どうしたの」
「何でもない」
そう言いながらも、鳴狐はやはり私のことを見ていた。ずっと見つめ合っててもしょうがないし、私は庭を眺めることにした。今は遠征から皆が帰ってきていないので、とても静か。…と、思っているとひやりとした感触が頬に触れた。手袋を外した鳴狐の手だった。右手で私の右頬を包むように撫でている。
「手袋してないの、珍しいね」
「主に、触りたかったから」
相変わらず感情の読み取りにくい声でそう言った。ここまで直球で来られると…何て返したものか。それにこの手を無下に払うことも出来なくて。私が何もしないとそれを了承と得たのか、鳴狐はその手を私の肩へとまわし、抱きしめた。何だ。
「具合悪いの?」
鳴狐は何も言わない。顔を私の肩に埋めてきて、面頬がひやりと冷たい。返事をする代わりにぐりぐりと顔を押し付けてきた。しょうがないから片手で頭を撫でてあげる。ふわりと柔らかい髪の感触に、少し頬が緩む。
「…主」
「ん?」
少しこもった声が聞こえる。その声は悲しそうで。
「……政府に呼び出された、って」
「…ああ、そのことね」
鳴狐の言う通り、私は明日政府に出向くように言われていた。なぜ呼び出されたか、って言うのはわかってるけど。それを口にしたらきっと彼が責任を感じるだろうから、私は言わない。
「報告して欲しいことがあるんだって。直接言いに行くだけ」
「……書類じゃ駄目なの」
「…今回はね」
鳴狐は顔を上げた。自然と見下ろされる形になる。目を合わせると、その目はとても鋭く私を見ていて。きっと嘘が、ばれてるんだろう。私は両手で鳴狐の両耳に触れる。そしてその面頬を外す。それを縁側に置いて、両手で鳴狐の顔を包む。小さくて、細い。
「主…」
「嫌だったら、よけて」
少し腰を浮かせて、鳴狐の顔に近づき、目を閉じる。そして自分の唇を鳴狐の唇に合わせた。柔らかい感触を直に感じる。手も頬も冷たかったけれど、そこには確かな温もりがあった。唇を離すと、鳴狐は目を見開いていた。この表情はわかりやすい。
「嫌じゃなかったんだ」
「……主はずるい」
小さな声でそう言うと、鳴狐は私の肩を引き寄せた。2人の距離がなくなって、また唇を合わせる。長く、永く。息が苦しくなったら口を開いて、その隙間から舌を合わせて、お互いを感じて。2人が離れる頃には体も手も熱くなっていた。
「…ほんとは、駄目なんだよ。こういうこと」
「知ってる。でも、主がもういなくなっちゃうような気がして」
私は鳴狐のその言葉に、言葉を返すことが出来なかった。だってそれは、近い未来に起きてしまう事実だったから。
何処かに春を
置いてきた
(それから主は帰って来なかった)
(春は、あたたかい季節はもう来ない)
あとがき
久しぶりの更新になってしまい申し訳ないです。もう3月ですね。
書きたいことはたくさんあったのですが、キリが良いのでここで終わりにしました。続きも出来れば書きたいです。鳴狐くんの一人称が知りたいですね。
2015年03月09日 羽月
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