「ただいまあ」
今日も無事に遠征を終えて、主のいる本丸に帰ってくる。両手にたくさんの玉鋼を抱えて。主はいつも玉鋼が足りないって言ってるからね。
「蛍丸!それに皆も、おかえりなさい」
本丸に帰ってくると、主は走って来て俺たちを迎えてくれる。その笑顔が見られれば遠征なんていくらでも行ってやる!って和泉守兼定が言ってた気がする。
「いっぱい獲れたよ」
「わあ!こんなに!」
主に玉鋼が入った袋を渡す。主は嬉しそうにそれを見つめる。
「よし!これで鍛刀出来る!頼んでこよーっと」
主はそう言って歩き出してしまう。ちょっと、まだ終わってないんだけど。
「主」
「ん?蛍丸、どうしたの?」
「なでなで、しないの?」
主はいつも、背が縮んじゃうって言ってもこれでもかって撫でてくる。子供扱いは好きじゃないけど、主の手は嫌いじゃなかったりする。遠征後の笑顔も好きだけど、俺はこっちの方を期待してるのに。
「ほ…蛍丸…!なでても…いいの?」
「いつも聞かなくても撫でてくるじゃん」
「…じゃあ…遠慮なくっ!」
主は俺のことを抱きしめて、ぐりぐりと頭を撫で回す。ぼ、帽子が取れる。主の腕に俺はすっぽりおさまって、背も主の方が大きくて。いつか主よりももっと大きくなってやるって決心したら。
「なんだお前ら、廊下で堂々とくっつきやがって」
「兼定!」
主はぱっ、と俺から離れて和泉守兼定の方へ向く。…なんだか気分は良くないけど、それを和泉守兼定に悟られるのはもっと嫌だから。ぐっと耐える。
「次の出陣は何時なんだ?国広がうるさくてかなわん」
「ふふ、兼定のこと大好きだもんね。まだ隊の疲労も癒えてないだろうし…あ、そうだ」
主はそう言って俺の方を見た。なんだろう。
「蛍丸、1部隊で出陣してみない?」
「俺が…1部隊に?」
「そう!蛍丸は遠征より出陣の方が好きなのかな…と思って」
「お前なら役に立ちそうだしな」
和泉守兼定は豪快に笑う。…俺は。
「…ちょっと、考えさせて」
「蛍丸…?」
俺は主が与えてくれた部屋へと向かった。普段は寝る時にしか使わない部屋。いつもは遠征に行ったり、主の近くにいたりするから…使わない部屋。
「蛍、見えるかな」
俺の部屋の近くには小川が流れている。夜は時々蛍がいたりする。名前の由来は蛍だし、蛍は嫌いじゃない。何より、蛍が見えるからとこの部屋を選んでくれた主の心遣いが、好きだ。襖を開けて外を見る。まだほんのり明るいから蛍は見えなさそう。
「1部隊か…」
部隊長はもちろん和泉守兼定。メンバーは俺が主に出会うずっと前からいた人たち。俺の知らない主をたくさん知ってる人たち。…もちろん、嫌いなわけじゃない。でも遠征も好きだし、何より主の役に立てるのなら俺は何だってする。だから別に1部隊じゃなくてもよかった。1部隊で他の人に誉を与えるのを間近で見るくらいなら、2部隊の隊長として遠征に向かう方がよかった。…でも、そこで得た物資は…新たな刀剣に命を注ぎ込むために使われて。どんどん新しい刀剣が仲間になって。いつしか俺は、2部隊にすら入れてもらえなくなってしまうのかなあ。
「…それはちょっと…嫌だなあ…」
自分の持っている、身の丈に合わない大きな刀を握りしめる。いつか、いつかもっと大きくなって…この刀を小さく感じる日が来るのだろうか。その日は、その日まで俺は主の側にいられるのだろうか。
「…主」
俺は、ずっとあなたの側に。
「……蛍丸」
「あ…主っ!?」
振り向くと主が部屋に入って来ていた。主の気配に気がつかないなんて。
「ちょっと…いいかな」
「うん、いーよ」
主は俺の隣に座った。少し間をあけて、だけど。
「蛍丸は、…その、やっぱり1部隊には行きたくない…のかな」
「…そんなことないよ。俺は、主の役に立てればそれでいい」
「…そう。私ね、蛍丸に2部隊をお願いしてたのは…理由があって」
主は膝の上できゅっ…と拳を丸めた。初めて聞く話だし、きっとずっと黙っていようと思っていたことなんだろう。
「私ね、蛍丸に…会いたかったの」
「へ…?」
「審神者に任命されてから、どんな刀剣があるのかたくさん調べて、どんな子達なら一緒に戦ってくれるか、たくさん調べた。それでね、1つ…目に止まった名前があったの」
「それが…」
「そう、蛍丸」
主はふわりと控えめに笑った。
「蛍って…とっても綺麗でしょ。だから綺麗な刀なんだろうな…って。いつか私のところに来てくれたらいいなって思って、鍛刀してたの」
「…そんな風に作ってくれたんだ」
「そうだよ。でも実際はこんなに可愛い子が来てくれて、ずっとなでてたいくらい可愛くて…でも、将来はきっと美しくて立派な大太刀になるんだろうな、とも思った。…だから、貴方を傷付けたくなくて。綺麗なまま育って欲しくて…戦場には連れて行けなかった」
初めて聞く主の気持ちに、どうしようもなく嬉しくなって。俺だけが、主のことを考えているわけじゃなかったんだと、知ることが出来ただけで嬉しくて。
「それに、蛍の寿命は短いでしょう?少しでも…長く蛍丸と一緒にいたいから短距離の遠征だけ、お願いしちゃって。…でもそれが、蛍丸にとっては不満だったのかなと思って。だから…1部隊の話をしたの」
「…主、ありがとう。俺はやっぱり、主の役に立ちたい。だから遠征でもなんでもするよ。…だから、外さないで」
「もちろん…!蛍丸も、皆も大事な仲間だもん…。蛍丸のいない本丸なんて、さみしくて帰って来れないよ」
「俺だって、出陣してて主がいない時の帰りはさみしーんだからね」
「ご、ごめんね…」
主はしゅん、としてしまった。俺よりも大人なはずなのに、主は可愛い。ふと外を見ると、もう夜だった。
「ね、主」
「…なあに」
「一緒に蛍を見よ」
「え…わあ…っ」
縁側から主を連れ出して外に出る。無数の蛍に囲まれながら、主と2人だけの時間を過ごした。
世界の中心はいつだって此処に
(どんな場所でも主がいれば)
(俺が生きる意味が生まれるんだ)
あとがき
蛍丸くんでした。うちのNo.2です。キャラが不安定で申し訳ありません。なんとなく蛍丸くんは好き、嫌い、じゃなくて好きじゃない、嫌いじゃない、って言いそうだなあと思いました。読んでいただきありがとうございました。
2015年2月3日 羽月
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