※学パロです。なんでも許せる方のみお進みください。































「…鳴狐、くん」


彼の名前をそう呼ぶと、肘をついて外を眺めていた顔がこちらを向いた。銀色の髪が夕陽を浴びて赤く染まっていた。燃えるように赤い夕陽と、それを写す銀色。


「ごめんね、待たせちゃって」


彼は肘から顔を上げて、ゆっくりと一度だけ首を横に振った。そして、じっとこちらを見ている。呼び出して、待たせた私の方を。小さく息を吸って、吐く。言わなきゃ、始まらないから。


「私、鳴狐くんのことが…好きです」

















1年前のあの日と、同じ光景が目の前にあった。真っ赤な夕陽、誰もいない教室、そこに立つ私…それから、窓際の彼。ただ1つ違うのは、彼がその場で顔を伏せて寝てしまっているということ。私は帰り支度を済ませた鞄を、誰のかもわからない机にそっと置いた。なるべく足音を立てないように近づく。彼の席の前まで来ると、出しっ放しにされた椅子に座った。近くまで来ると聞こえる寝息。すう、と規則正しく呼吸をしている。


「…何も、変わらないのに」


こうしていると、何も変わらない。クラスは違うけれど、時間を合わせて一緒に帰ったり、手を繋いだり、同じものを食べたり、抱き合ったり、電話したり…。たくさんの彼との思い出も、増えることなく記憶の中に大事にしまわれている。…じゃあ何故、今は違うのか。答えは、彼が私に別れを切り出したから。何の予兆もなく、唐突に。今までのことはなかったことにしよう、そう告げられた。私は泣いた。1週間くらい学校を休んだ。それでも彼が私に、あれは嘘なんだと言ってくれる日は来なかった。


「まだ、好きなのに」


机に伏せて寝ている彼の髪を触る。ふわふわの感触が気持ち良い。そういえば眠そうな彼に肩や膝を貸したなあなんて、あの頃のことが蘇る。懐かしさにひたっていたせいか、その彼が目覚めていたことには気が付かなかった。突然頭を撫でていた手首を握られ、彼はその手を机に押さえつけた。そして身を乗り出し、膝から机の上に乗り私の体へと覆いかぶさってきた。触れる唇に、後頭部にまわされた左手。抵抗すればきっとすぐに止めてくれただろうし、押しのけることだって出来たはず。…でも、この懐かしい温もりに少しだけ身を委ねたくなってしまった。唇が離れると、彼は机から降りて、私の目の前に立った。自然と見上げる形になる。


「…さっきの、聞こえてた?」


彼はまたゆっくりと首を横に振った。"さっきの"が何だかわからないはずなのに否定するということは、やっぱり聞こえてたんだろう。


「…好き」


彼の目を見てそう言った。ねえ、好きだよ。伝えたよ、私の気持ち。貴方も本当の気持ちを言って。でも鳴狐はそこから動かず、何も言わず、ただ目を閉じた閉じただけだった。


「なんで、別れなきゃいけないの」


鳴狐は、目を開けた。そして優しく私の頭を撫でた。心地良くて目を閉じる。その手が頬に添えられ、また唇を合わせられた。目を開けると、少し悲しそうに微笑む鳴狐。


「…ごめんね」


彼はその言葉だけ遺して、歩いて行ってしまう。その歩みはゆっくりだけど、もう追いつけないような気がした。私は椅子から立ち上がって、走る。彼の制服を両手で掴む。彼の背中から伝わる温かさ。そうだ、後ろから抱きしめるの…好きだったなあ。


「なんで…駄目なの。…嫌いになったの?」


鳴狐は何も答えない。でも動こうともしない。


「じゃあ…なんでキス、したの」


鳴狐の手が、少し動いたような気がした。


「答えてよ…」

「……大好きだった」


鳴狐はそう言って、私の手を優しく下ろして言ってしまった。足音が聞こえる。まだ間に合う、まだ追いかけられる…でも、私の足は動かなかった。足音が聞こえなくなると、力が抜けてその場に座り込んだ。膝、痣になるかな。…でも多分、これから数日学校に行けないからきっとその間に治るだろう。


















そんな世界の
終わり方

(伝えたいことなんて)
(何もわからないまま終わってく)

































あとがき

学パロが書きたくなって書いてしまいましたが、あまり学生要素がないような気がしました…。名前はそのままです。これもシリーズにしたいくらい書き足りないのですが、シリーズにしたら終われない気がするので短編にしました。鳴狐くんは夢主ちゃんのこと、今でも大好きです。

読んでくださりありがとうございました。

2015年04月13日 羽月



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