※鳴狐のゲーム内での破壊シーンは台詞のみ、見ております。想像ですが、それでも良いという方は先にお進みください。
人と馴れ合うのは苦手だった。
今までは人と馴れ合わなくても支障は無かった。それに隣には供がいたから、孤独を感じることも無かった。…彼女と、主と出会うまでは。主は審神者という、歴史を正す役目があると語っていた。そんな重い役目を担いながらも、中身は普通の女子と同じであった。短剣達と走り回ったり、傷付いた刀剣の為に涙を流したり、狐を抱いては頬を綻ばせたり…。そんな誰にでも優しい主が最初にかけてくれた言葉を、今でも覚えている。
「あなたは…1人なの?」
「これはこれは審神者様!私めは鳴狐のお供の狐でございます!鳴狐は1人などではございませぬ!」
「わ…ごめんね…!えと、私は大事なことを成し遂げるために、仲間を探してるの。よかったら、狐さんと鳴狐さんも協力してくれませんか?」
「鳴狐は人付き合いが苦手でございます!ですから人の多く集まる場所は好まないのであります」
「…そうなんだ。でも、私は鳴狐さんとも狐さんとも出会えて、すごく嬉しいの。だから…ここでお別れなんてしたくないの。少しずつでも人と…刀剣達と関わって、鳴狐さんにも、もっと色んな景色を見てほしいな」
主はそう言って笑った。戦場には似つかわしくない笑顔で。主に導かれるように立ち上がり、その後を付いて行ったのはいつのことだったであろうか。
「鳴狐くん、狐くん」
本丸に連れて帰られて、怪我を癒してもらい、一部屋与えてくれた主。初めは2部隊の副将として、歴史修正主義者達を討伐したり遠征に出掛けたりしていた。そうして何日か経ったある日。
「1部隊に、来てくれないかな」
そう言った主の表情は、どこか暗くて。
「鳴狐!大出世でございますね」
「もう、他の子達にも馴れて来た頃だし、…大丈夫…だよね」
「……」
「主殿…」
鳴狐は口を噤む。きっと感情を悟ったのだろう。そっと狐の首筋を撫でた。そして主の方を向き、頷いた。主はわかってくれただろうか。自分の意思で1部隊に入ることを望んだことを。刀として、主を守り朽ちても良いと思ったことを。
「今日から1部隊に鳴狐くんが入ってくれます。皆さんよろしくお願いします」
「はーい。よろしくね」
「がはははは!誰が来ようと誉はやらんがな」
「よろしくお願い致す」
「よろしくな!隊長の座は譲らないけどな!」
「これは驚いたな。鳴狐、よろしく」
蛍丸、岩融、太郎太刀、獅子王、鶴丸国永。1部隊にいる、精鋭達。彼らとたくさん出陣した。時には意見がぶつかり合うこともあったが、主の指示に従い順調に進んでいたと思う。…だが。
「中々やるじゃん…!」
武家の時代は、歴史修正主義者達もかなりの強者ばかりで。
「これ以上赤に染まったら、鶴じゃなくなっちゃうよなあ…」
負傷者はこちらも敵も同じ程度で。
「遊びの時間は終わりにしようぞ!」
岩融の薙ぎ払いで敵は殲滅した。勝利を得たものの、皆中傷や軽傷を負っており、先に進める状態では無かった。
「皆さん、ここは一度撤退しましょう」
主が声を張り上げてそう言う。主の周りに皆が集まり、撤退をしようとする。…しかし、
「獅子王は…獅子王はどこですか!?」
主が叫ぶ。周りには5人。獅子王の姿は見えない。
「主殿…あそこに倒れておりますのは獅子王殿では…!」
供の狐が、戦場には似つかわしくない甲高い声を上げる。ここから少し離れたところに倒れている黄金の影。そして…その後ろに見える煙。あれは敵軍がこちらに向かって来ている証。
「獅子王っ…!」
「主殿、いけませぬ。貴女にもしものことがあれば歴史は…未来はどうなるのです」
主が走り出そうとするのを太郎太刀が止める。そうだ、ここで主がいなくなったら…獅子王がいなくなったら…。自然と体が動いていた。まだ軽傷しか負っていない。
「…主」
自分の声で、声をかけ、肩に手を置く。主はこちらをゆっくりと見た。後は、言いたいことは供の狐が言ってくれる。
「主殿!この鳴狐と供の狐が足止めをして参ります。その隙に皆様は獅子王殿を連れて撤退を!」
「鳴狐…?」
「…狐を、よろしく」
供の狐を主に預け、そして走り出す。獅子王に向かってくる敵に向かって。きっと軽傷の自分が一番早く動ける。後ろをちらりと振り向けば、岩融と蛍丸がこちらに走って来ていた。あの2人が獅子王を助けてくれるだろう。そして、その先には太郎太刀と鶴丸国永に抑えられている狐と…主が見えた。
「ふっ…」
飛んでくる石、弓、銃弾を避ける。まずは主力の大太刀から…斬る。装備が頑丈で、一太刀では破壊出来ず、その隙に打刀から攻撃を受ける。…まだ中傷。主につけてもらった装備がはがれていく。脇差、薙刀を斬り、あとは……そう思った刹那、後ろから斬りかかられる。…まだ、短刀が残っていた。何とか体勢を立て直す、が…
「ぐっ…!」
まだ短刀が、2体。まだ残っていた。地面に倒れる。装備は無く、供の狐もいない。倒れる間際に、岩融に抱えられる獅子王が見えた。これで、もう大丈夫だろうか。ゆっくりと目を閉じ、覚悟を決める。…供の狐は、1人になっても喋り続けるだろうか。
「…ね!…な…つね……鳴狐…!」
瞼に、冷たいものを感じる。目を開けると、涙に濡れた主の顔がそこにあった。周りを見渡せば、空は明るく、他の刀剣達もいた。
「鳴狐!鳴狐!大丈夫ですか!?」
「よかった……本当に…無事で…」
主の目からとめどなく涙が溢れる。こんなにも綺麗なものを、主はたくさん持っていたんだなあと、実感する。起き上がろうとすると、背中や色んなところが痛む。
「…っ…」
「主殿!鳴狐の面頬を取ってくださいませ」
「え、…あ、うん…鳴狐…、取るね?」
主の白い指が頬に触れる。そして面頬が外される。自分の声が息にしかならなくて、主に伝わらない。
「なに?なんて…なんて言ってるの…?」
主が耳を近づけてくれる。さらさらした髪がくすぐったい。狐とは…違うんだ。
「…主…ありがとう」
「私、なにもしてないよ…!まだ全然…なにもしてあげられてない…ねえ、一緒に帰ろう…?まだ…まだ終わってないんだよ…」
「……主と、たくさん話せて…よかった」
「なに言ってるの…ほんの少ししか、話してないよ…私は…っ…鳴狐とたくさんお話ししたい…」
「もう…十分だ」
そっと、目を閉じる。主と供の呼ぶ声が聞こえる。その声が聞こえるだけで…幸せなんだ…でも、…もう駄目なのかなあ…。
最期まで動き続けるという病
(ねえ、主)
(狐は…狐は自分の気持ちを喋っていますか)
あとがき
読んでくださりありがとうございました。刀剣乱舞夢、鳴狐くんでした。
人と接するのが苦手な鳴狐くんだけど、審神者ちゃんと出会って人と接するのが楽しくなって、感謝してたら良いなあと思いまして。特に獅子王くんは名前に獣が入っていますし、彼の明るい性格上、鳴狐くんとも狐くんとも仲良くしてくれて、きっと助けたいと思ったと思うんです。今まで人と接することを避けて来た鳴狐くんは、自分と接してくれた人たちを失いたくないんじゃないかと。失いたくないものを守るためには自分を犠牲にすればいいと、思ってしまうのかもしれないと。
今回のお話で鳴狐くんが仲間になったのは、1部隊だった男士が破壊してしまったからという設定があります。鳴狐くんはそれをわかっていたから、覚悟を決めたんです。
鳴狐くんが最後の一撃を受ける前に助けたのは蛍丸くんです。彼なら短刀2体くらい、一撃でしょう。それから皆で安全な場所に…という流れです。
それと、供の狐くんは鳴狐くんの代わりに話しています。他に話すことは、鳴狐くんの心配ばかり。だから鳴狐くんは自分のこと以外も、狐くんに話してほしいなあなんて思ったりしてるんじゃないでしょうか。
あとがきなのに長くなってしまい申し訳ありません。熱がおさまりませんでした。読んでいただけて、とても幸いです。
2015年2月2日 羽月
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