「主様いってきます!」
「気をつけてねー」
短刀ちゃん達を遠征へ送り出す。毎回はらはらするけど、帰ってくる短刀ちゃん達の嬉しそうな顔を見るとついつい外へ遊びに行かせてしまう。今日は少し遠出のお使いをお願いした。…さて。
「…報告書…書かなきゃ」
そう思ったけれど、なんだか体の調子がおかしいような気がする。朝からなにも食べてないけど、食欲はわかないし。少し寒いような気もする。…気のせいか。
「さっさと終わらせて休もう」
自室へと足を動かす。…けれど、バランスを崩してしまう。どさりと大きな音がする。気づけば私の視界には床しか見えてなかった。あれ、倒れたのか。そしてぱたぱたと足音が聞こえてくる。
「主殿!大丈夫ですか!?」
これは…キツネくんの声だ。大丈夫だよ、と言いたいけれど上手く声が出ない。もう駄目だ。私の意識はあっけなくとんでしまった。
「う…」
気がつくと布団の上に寝かされていた。着物は審神者が着るごてごてした着物のままだけど、額に乗せられた手ぬぐいが冷たくて気持ち良い。
「熱、あるなあ…」
どうやら風邪を引いたらしい。審神者でも体調崩すのか、なんてどうでもいい疑問は置いといて。
「とりあえず着替え…」
上半身を起こして布団の上に座る。でも頭はぐらぐらしていて。でも汗もかいたし、この着物寝づらいし。どうしよう、なんて考えていると部屋の襖が開いた。
「主殿目が覚めたのですね!」
鳴狐とキツネくんだった。そうだ。もしかして2人が部屋に運んでくれたのかもしれない。
「主殿いかがなされましたか?動くのもお辛いでしょうからこのキツネと鳴狐になんでも仰ってくださいませ」
「ありがとう…。じゃあ着替えのジャージを取ってもらえるかな…」
「かしこまりました!」
着替えがしまってあるところに取りに行ってくれるキツネくんと鳴狐。そして少しだけ箪笥の中を荒らしたあとに、ジャージを手にして、私に渡してくれた。
「ありがとう」
「主殿…お辛そうでございますなあ…。そうだ!鳴狐、着替えを手伝って差し上げたらいかがでしょうか。私は変えのお水を頼んで参ります」
「…え」
キツネくんはそう言って部屋から出て行ってしまった。ちょっと。キツネくんは何てことを言い残して行くんだ。私がキツネくんの一言で固まってる間に、鳴狐は私の羽織を肩からずらしていった。
「ちょっと鳴狐…!」
「主、辛そう。あまり動かない方がいい」
そしてするりと私の腕から羽織を脱がせてしまう。少しひんやりとする。そして次は袴に手をかける。袴の結び目をするする解かれ、お腹の締め付けが緩くなる。
「自分で出来るから…!」
そう言っても鳴狐は聞いてくれず、袴を脱がせようとして下ろしてくる。下に着物を着ているから見えないとはいえ、恥ずかしいのは当たり前で。
「…少し腰あげて」
「うう……ん…」
でも動くのもだるいというのは事実なので、やはり鳴狐に手伝ってもらうしかなかった。袴を脱いだ後は、着物の間からズボンを履き、シャツを着てジャージを羽織るだけ。
「…あとは、出来るから」
「わかった」
鳴狐はそう返事をしたけど、その場に座ったまま動かなくて。手伝いはしないけどそこで見張ってるらしい。着替えを人に見られるなんて…どんな状況なの。仕方なく、ズボンを履き、その上からTシャツを着る。Tシャツの中で着物と長襦袢を脱いで落とす。それからジャージの上着を羽織る。
「…あとは寝てれば治るよ」
「主は、仕事し過ぎだと思う」
「……そんなことないよ」
鳴狐には、少し休んでから報告書を書こうという私の考えがばれているらしい。今日は休めってことか。私は仕方なく布団に潜り込む。すると襖が開いて、燭台切とキツネくんが変えのお水を持って来てくれた。
「主、大丈夫かい?」
「2人とも、ありがとう」
燭台切が持ってきてくれらお水に、キツネくんが手拭いを浸してしぼり、取り替えてくれる。
「そうだ、鳴狐。あれを主にあげなくて良いのかい?」
「…!」
燭台切が鳴狐に声をかける。すると鳴狐は慌てて部屋から出て行った。余程焦っていたのか襖が少し開いたままだ。
「鳴狐…どうしたの?」
「ふふ、僕の口からは言えないよ」
燭台切はそう言って立ち上がり、お大事にと言って部屋から出て行ってしまった。あれ、行っちゃうんだ。…世話好きの燭台切だから側にいてくれるかと思ったけど。するとまたすぐに襖が開いた。そこには両手でお盆を持つ鳴狐。
「おかえり。それ何?」
「…うどん」
「それ…鳴狐が?」
「主殿が眠っておられる間に燭台切殿に教わりながら鳴狐が作ったのです!さあさあ温かいうちにお召し上がりくださいませ」
湯気が立っていて美味しそうなうどん。鳴狐が…作ってくれたんだ。鳴狐からお盆を受け取ろうとするけど、何故かこっちに渡してくれない。その上、鳴狐がお箸を持っている。
「ちょっと、それ私のうどんじゃ……え?」
鳴狐はうどんをお箸で掬うと、それを私の方に向けた。まさか。
「食べないの?」
「じ…自分で食べれるから…!」
そう言うと鳴狐は頭を下げた。ものすごく悲しそうな表情だ。
「…ごめん、鳴狐。た…食べさせてほしいなー…」
「………うん。わかった」
私が声をかけると、勢い良く頭を上げて少しだけ微笑んだ。手のかかる子だ。鳴狐がうどんを差し出す。私はそれを食べる。温かくて味もちょうど良くて美味しい。
「美味しい。ありがとう」
「…よかった」
そう言いながら鳴狐は自分の面頬を取り始めた。そして、自分でもうどんを食べた。おい。
「なんで鳴狐も食べるの…」
「主と同じもの、美味しいから」
そう言って鳴狐は微かに笑った。その笑顔を見てしまったらもう何も言えなくて。看病してくれた鳴狐にそっとお礼を言った。
少女が眠る宇宙の底で
(鳴狐、手に火傷とか切り傷とかたくさん作って頑張ってたよ)
(燭台切からそう聞かされた)
あとがき
読んでいただきありがとうございました。鳴狐くんでした。風邪を引いた審神者を一生懸命看病する鳴狐くんが書きたかったのですが中々難しいですね…。少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。
アニカフェの鳴狐くんのメニューはきつねうどんでしたね。
2015年02月23日 羽付
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