「鳴狐…!」


自分の部屋の襖が勢い良く開く。そこには泣きそうな顔をした主が息を切らせて立っていた。審神者の着物は長くて歩きづらいのに、走って来てくれたのだろうか。


「鳴狐…ごめんね…!」


主は側に寄って来てくれた。手当て用の道具を出して傷がある場所を手当てしてくれる。


「私が、一緒について行けば…」

「主殿!ご心配はなさらずとも鳴狐は大丈夫ですぞ!」


キツネが代わりに自分の気持ちを話してくれる。怪我の理由は主にはないはずだが、主は泣きそうな顔のままだ。今回の出陣は、まだこの本丸に来て日も浅い刀剣達と様子を見に行くというものだった。以前赴いた場所であったし主の体調が優れなかったため、今回は部隊長に全てを任せての出陣だった。


「藤四郎くんたちは、皆無事だったよ。…鳴狐のおかげだね」


しかし、道順に進んでいたら思わぬ強敵と遭遇してしまったのだ。部隊長は一期一振。他の四人は短剣。一期一振には短剣達の護衛を任せて、自分はその敵に向かって行ったら…いつの間にか傷を負っていた。それだけなのに。


「鳴狐のおかげだけど…でも、こんなに怪我して…」


主は涙を流した。皆無事だったのに。


「…主」


声をかけると、主は顔をあげた。その目には涙が浮かんでいて。指の先でそっとその涙を拭う。ああ、主からもらった手袋もぼろぼろだ。


「皆、無事だ」


主の髪をそっと撫でる。キツネも手をのばして一緒に撫でる。主は少しだけ照れたように微笑んだ。少しでも、自分が主の笑顔を作れるのなら…それは自分の生きる意味になる。自分よりも小さな小さな体をそっと包み込んだ。両手におさまってしまう小さな主。突然のことに驚いたのか、体が強張ったのがわかる。肩から背中、腰までをそっと撫でる。


「鳴狐…離して…」


主の声から戸惑いを感じる。…でも離したくなくて。主の首筋に顔を埋める。ほんのりと良い香りがして、自分の目を細める。


「ねえ、聞いてるの…鳴狐」


少し不満そうな主の声。


「…ご褒美」

「え…?」

「主殿!鳴狐は頑張りましたのでご褒美がほしいと申しております故、しばらくこのままで…むぐう!」


キツネの口を塞いだ。自分の手をキツネの口に当てたから、そのせいで主は離れてしまった。でもその頬や耳はほんのり赤い。


「主、顔真っ赤」

「な…誰のせいだと…」


主は下を向いてしまった。少しやり過ぎてしまっただろうか。でも少し黙った後、そっと両手を広げた。


「…もう少しだけなら」


その言葉を聞いて、キツネが肩から降りて主の元へ急ぎ足で歩いて行く。遅れを取ったが自分も主の側へ行く。…主、貴女がいるからどんなに傷付いても、どんなに辛いことでも乗り越えられる。



















幸せが枯渇する
そのまで

(この時が続く限りは、)
(幸せに浸ってもいいだろうか)































あとがき

鳴狐くん夢、2個目でした。今までの小説の中では糖度高めかと…。でもこれ以上は耐えられなくて短くなってしまいました。すみません。

最近は審神者の皆さんは糖度高めと低めどちらがお好みなのか、気になっております。読んでいただきありがとうございました。

2015年02月11日 羽月




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