まこちゃんお相手
まこちゃん、はるちゃん、なぎさくんの幼馴染み
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「暑い…」


思わず声を出してしまうほどの暑さ。私はいつものように家の前で幼なじみを待つ。ほんとは一人で行ってもいいんたけど、何故かものすごく怒られたからやめておく。


「咲子!」


少しだけ息を切らして、幼なじみの橘真琴が私のもとへ来る。こんなに暑いのに走ってくるなんて…。


「ごめん、遅くなって…」

「お疲れ」


私がそう言うと、彼は体に似合わずふわりと笑ってありがとうと言った。いつになっても変わらない。のんびり歩いている時間もないから、私たちは自然ともう一人の幼なじみの家へ歩き出す。


「そういえば水泳部作ったんだって?」

「そうそう。ハルも入ってくれて、あと渚も」

「渚?同じ高校だったんだ…」

「今度咲子にも会いたいって言ってたよ」

「…会えたら、ね」


そこで会話が途切れた。いつもは彼から何かしら話してくるけれど、今日はどうしたんだろ。…なんて考えてると、彼は口を開いた。


「また告白されたの?」

「…」

「無言、ってことはそうなんだ」

「…真琴には関係ないじゃん」

「咲子はこの手の話はしたがらないよね」

「…真琴だってそうでしょ」

「ん?何?」

「……別に」

「咲子は好きな人とかいないの?」

「…何で…そんなこと聞くの?」

「告白されても断ってるって聞くから、いるのかなって」


真琴は優しい口調で聞いてくる。…ほんとに、鈍い。


「…ほら、着いたよ」

「あ、ほんとだ」


丁度ハルの家の前まで来ていた。助けられたと思いながらハルの家に入る。台所にいないことを考えると、ハルがいる場所は1つしかない。


「またお風呂?」

「なんだ、咲子と真琴か」

「なんだじゃないだろ、ハル」


真琴が私の後ろでそう言う。真琴は背が大きいから私の頭のすぐ上で声がする。この距離での声はちょっと…辛い。私は仕方なく靴下のままお風呂場に入る。ここならあまり濡れない。


「ほら、ハル。出るよ」

「…今日は休む」

「今日は…って、入学式も休んだんでしょ?」

「…」


ハルは黙りこんだ。子どもか。引っ張りあげたいところだけど、それでこっちがずぶ濡れになるのはごめんだし…うーん…。


「ん?誰か来たみたい」


私が一人で悶々と悩んでいると、真琴がそう言った。こんな朝早くにお客さん?なんて思ってると、懐かしいような嫌な声が聞こえてくる。


「ハルちゃーーーん!」

「渚!?」

「あ、まこちゃんだ!…てことは…」


突然やって来た彼の視線が私の方に向く。とても嫌な予感がする。


「さきちゃんだー!!」

「ちょ、渚…危な…っ!」


渚はタックルする勢いで私に突っ込んできた。当然受け止めきれるわけもなく、私は渚と一緒にハルの入っている湯船に頭からダイブした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「遅刻確定…」

「咲子大丈夫?」

「…なんとか」


私は皆がいる居間に来た。ハルの服を借りて。

湯船にダイブしてから、何故か渚が抱き付いて離れてくれなくて真琴が慌てて引き剥がしてくれて(期待しちゃうじゃん)。何故かハルがシャワーを私と渚に向けてかけて「湯船に入るときはちゃんと体を洗え」とかわけわかんないこと言ってたのをまた真琴が止めてくれて。そのあとは、真琴が適当にハルの持ってる着替えを私に持ってきてくれて、ハルと渚を連れてお風呂から出ていってくれた。


「ハル、乾燥機借りてるからね」


私のブラウスと下着は乾燥機を借りて、スカートは縁側で乾かしている。ハルのシャツとズボンはやっぱり大きくて、ぶかぶかしてる。


「ああ」

「4人で揃うのって久しぶりだよね!」


渚がそんなことを言う。確かに、4人で揃うのは久しぶり。特に渚と私なんて、あのスイミングスクールがなくなって以来会っていない。渚は私に近づいてくる。


「咲子ちゃん!改めて久しぶり!」

「うん、久しぶり。渚は変わらないね」

「そうかな?背も伸びたし声も低くなったんだよ?」

「うーん…まあ確かに。私より小さかったもんね」

「咲子ちゃんは変わったね!」

「え…そう?」

「昔は可愛かったけど、今は綺麗になった!」

「あはは…ありがとう」

「彼氏いるの?」

「…話とんだね」

「好きな人は?」

「…別に」


私はちらりと真琴を見る。彼はハルと話しててこっちを見てはいなかった。


「ふーん…じゃあ、僕が狙ってもいいよね?」

「へ…渚…?」


渚の顔がどんどん近づいてくる。なんだか急に大人になった渚を感じた。


「待って…っ…!」


後ろに下がろうとするけど、ハルのぶかぶかな服のせいで思うように動けない。そして渚が覆い被さってくる。私を支えているのは私の腕だけ。当然耐えられるわけもなく、そのまま2人で倒れ込む。


「ちょっと…!」

「渚!」


渚の顔が近づいてきたと思ったら、急にその距離が離れる。それは真琴が私から渚を引き離してくれたから。


「まこちゃん、顔怖いよ?」

「渚、悪ふざけは…」

「本気ならいいでしょ?」

「…」


2人がいがみ合っている。ハルに助けを求めようとハルを探すと、彼は呑気に鯖を焼いていた。いい香りがする。ハルは使えない。


「咲子」

「…なに?」


真琴が私に声をかける。何かと思ってそちらを向く。


「もう少し気を付けた方がいいよ」

「…何を」

「男は、例え渚とはいえ、なに考えてるかわかんないんだから」


真琴は私の肩からずり落ちてたシャツを上げてくれる。肩が熱い。私はその肩を触る。


「…急に説教?」

「俺は、咲子が心配なんだよ」

「…」


何、それ。


「……真琴が守ってくれればいいじゃん」

「は…」

「…その気がないなら中途半端なこと、しないで」


私はそのまま立ち上がって、走る。もうやだ。真琴は私のこと、わかってない。わかってくれない。家から出るときにハルとすれ違う。


「着替えは…あとで取りに来るね」

「咲子?」


私は外に出る。日差しが眩しい。私はひたすら走った。走ってると、砂浜についた。疲れたし、汗もかいたし、私はその場に座り込む。…そういえば、下着つけてないや。でも今は授業中だし、人通りも少ない。


「…咲子…?」

「え…?」


私が顔を上げると、そこにはすらりと背の高い男の人が立っていた。


「り…ん……?」


まさか、と思ってその名前を呼ぶ。そうすると彼は、気まずそうな顔をした。…きっと私に会いたくなかったんだろう。


「久しぶりだね」

「…ああ。お前、学校は」

「うーん…さぼりかな。そう言う凛は?」

「…トレーニングだ」

「そっか」


凛はそのまま私の隣に座った。凛はトレーニング中で汗かいてるはずなのに、いい香りがした。


「凛、いい匂いだね」

「何だよ…いきなり。つーかそれ、ハルのだろ?」

「え?」


私のシャツを指して凛が言う。あ、これまずいかも。


「これは、借りたんだよ」

「…ふーん」

「ねえ、凛」

「何だよ」

「…男の子って、何考えてるの」

「は?」

「教えて」

「…ハルか?」


私は首を横に振った。


「じゃあ、真琴か」

「…ん」

「昔から大好きだったもんな」

「……気づいてたんだ」

「お前、わかりやすいからな」


私ってわかりやすいんだ。それなら何で…真琴は気づいてくれないの。もしかして、気づかないふり…とか。


「…当事者にはわかんねーもんだよ」

「私の心読めたの?」

「わかりやすいって言っただろ」

「…うん」


そのまま2人でぼーっとする。少し強くなってきた日差しと、静かな波の音だけがそこにある。


「なあ」

「んー…?」

「…来たぞ」


凛がそう言うと、後ろから誰かが走ってくる音がした。かなり嫌な予感…。私は咄嗟に凛の腕にしがみつく。今顔を見たら、何を言うかわからない。


「おい、咲子…」

「咲子!!!」


今までで聞いたこともないくらい大きな声。そっと顔を上げると、朝よりも息が切れていて汗をかいているのがわかる。


「咲子、帰ろう」

「…」


私は真琴の言葉を無視する。今さら、迎えに来たって遅いの。私は更に強く凛の腕にしがみつく。


「咲子…男は何考えてるかわからないって言っただろ」

「…真琴の方が何考えてるかわかんないよ」

「え…?」


私は凛の腕に顔を埋めたままそう言う。でもこれだけは正面から言いたくて、顔を上げた。


「…私のこと…好きなら好きって、嫌いなら嫌いってはっきりしてよ!」

「っ…」

「真琴」


すると凛は立ち上がって、真琴に近づく。そのまま真琴に何か言うと、歩き始めてしまった。


「凛…?」

「じゃあな、咲子」


そして沈黙。こんな状況で、真琴と2人きりになるなんて。気まずい。私は真琴に背を向けて座り込む。絶対絶対、私からは謝らない。


「…咲子」

「…」

「俺…いや、俺だけじゃない。俺達幼なじみは、咲子のこと…特別に思ってるんだ。友達とか恋人とかじゃなくて、本当の家族みたいな…そんな女の子だと思ってるんだ」


真琴は私の後ろで立ったままそう言う。初めて聞く真琴の本音。


「…でも、俺は違った」

「!」

「俺は、皆以上に咲子のことを特別だと思っていて、特別な存在になりたかったんだ。ハルが服を貸したのだって、渚と2人で話してたのだって、凛が咲子に腕を取られてたのだって、どうして俺じゃなかったんだろう、って。どうして俺が1番に側にいなかったんだろうって」

「…ん」

「でもさ、こんなの口に出して言ったらかっこ悪いだろ?嫉妬深い男なんて…咲子には合わない。だから、距離を取って普通に接しているつもりだったんだ」


私は真琴の言葉を聞いて、何も言うことができなかった。言いたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこなくて。こんなに、こんなに嬉しいのに。真琴に何も言えなかった。


「咲子、そのまま聞いて」

「…うん」

「咲子が好きだよ。俺と…付き合ってください」

「真琴…」

「返事は、顔見せてほしいな」


私は真琴の方を見た。真琴は、いつもより少し頼り無さそうに笑った。少し手が震えてて、とてもいとおしくなった。


「私も…真琴が、好きだよ。小学校の頃から、ずっと」

「ほんと、に…?」

「はは…ほんとだよ。…だから、我慢なんてしなくていいよ」


私は体も真琴の方を見て泣きながら、笑いながらそう言った。真琴は安心したように笑うと、私を力強く抱き締めた。今までの真琴の思いが全部つまっているような、そんな気持ちがこもっている。


「真琴…くるし…!?」


私の言葉を遮るように、真琴は私の口を塞いだ。真琴は私の頭を支えて、角度を何度も変えてキスをする。2人の息が荒くなるまで、何度も。そうしたあと、私達はゆっくり離れる。真琴は、私の着ているシャツを掴む。


「…帰ろうか」

「え、うん…?」

「このシャツ、早く脱がせたい」

「は!?」


私の顔はおそらく、真っ赤に染まっている。だってヘタレな真琴からそんな言葉が出るなんて…!


「行こ?」

「うん」


私達は2人で手を繋いで歩き始めた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

何処かで君を
望んでいたの

(ねえ)
(何?真琴)
(……今、下着つけてる)
(え!!!)
((やっぱり…どうりで柔らかいと思った))
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

あとがき

読んでいただきありがとうございました。最初の予定では悲恋でしたが、ハッピーエンドな上、凛ちゃんまで出演してかなりの長さになってしまいました!freeへの熱が耐えきれなくて、一気に書き上げてしまいました。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。24時間テレビの大島さんの完走と共に終わります!

2013/8/25 葉月
 
 


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