※ヒロインちゃんはアスベル達と幼なじみ
ヒロインちゃんは偉い貴族の息子さんとの婚約が決まった
アスベルが好き
時間軸的には未来への系譜が始まる2ヶ月くらい前
「アイリス!」
ラントに戻ると、ソフィが私を見つけて走ってきてくれる。ソフィ達と会うのは、1年ぶりくらい。
「久しぶりだね」
「そうね。ソフィは元気にしてた?」
「うん!アスベルと一緒にお花育ててるよ」
「そうなの。そのお花、私も見てもいい?」
「もちろんだよ」
ソフィは笑顔でそう言う。前に会ったときよりも、感情が豊かになった気がする。
「こっちだよ」
ソフィが手を引いて案内してくれる。通りなれた道…。そして目の前には大きな家が見えた。領主邸、つまりソフィがすんでいる家だ。
「あれだよ」
ソフィは私を連れていってくれる。家の前の花壇にはクロソフィの花がたくさん咲いていた。まだ蕾のままのものや、咲き誇っているものもある。
「綺麗…」
「ほとんど私が育てたんだよ。クロソフィの風花を見るの」
「そっか。これならきっと見られるよ、ソフィ」
「アイリスありがとう」
ソフィと2人でクロソフィを見ていると、領主邸のドアが開く。中から声がする。
「ソフィーどこに行ったんだ?」
「ここだよ」
懐かしい声、懐かしい姿。そこに立ってたのは、アスベルだった。
「そこにいたのか。…あれ、アイリス…か?」
「久しぶり、アスベル」
相変わらず見た目とかは全然変わってなくて、思わず笑ってしまった。するとアスベルは不思議そうな顔をする。
「どうして笑ってるんだ?」
「ごめん、ごめん。…何でもないよ」
ただ、ここはいつ来ても何も変わっていないし、私をあたたかく迎え入れてくれる。それが、いいなと思っただけ。
「しばらくはラントに居るのか?」
「うーん…2日くらいかな」
「アイリス…またすぐどこかに行っちゃうの…」
ソフィが下を向く。こんなにソフィに思われてたのかな…って思うと、不謹慎だけど嬉しくなる。
「…ごめんね、ソフィ。でもここにいる間は、ずっとソフィと一緒にいるよ」
「ほんと?」
「うん」
「じゃあ…あとでカニタマ一緒に食べよう!」
「ふふふ、ソフィはカニタマ大好きなんだね」
「うん。アスベルとアイリスと同じくらい好き」
「嬉しい」
ソフィと2人で笑って、それをアスベルが微笑んでみてる。ほんとに幸せで、楽しくて。ずっとこんな風にいられたらいいのに、って思った。
それからアスベルの家でご飯を食べて、いろんな話をした。昔のこととか、今は何してるとか。時々ソフィのしたいことをしながら、ずっと話していた。
「いろいろ忙しそうだな」
「アスベルに言われたくないよ」
「そうか?」
「アスベル…私、」
私はラントに来た本当の理由をまだ2人には言えてなかった。それを告げようとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「悪いな、アイリス」
「いいよ、行ってきて」
アスベルがドアを開けると、フレデリックだった。何でも急なお客様が来たから対応してほしいとのこと。私はアスベルから頼まれて、既にうとうとしていたソフィを連れて寝室へ戻った。
「アイリス」
ベッドに入っていると、ソフィが私の服の袖を引っ張る。
「どうしたの?」
「…アイリスなんだか悲しそう」
「悲しそう…?どうして?」
私はソフィに微笑む。…この子には、何でもわかっちゃうのかな。
「アイリスが帰っちゃったらもう会えない気がするの。何かを諦めてる…そんな表情してる
「ソフィ、考えすぎだよ」
私はソフィの頭を撫でる。ソフィはそれでも不安そうに私を見る。
「…大丈夫。こうしてソフィの手をずっとにぎっているから。またここに戻ってくるよ」
「ほんとに?」
「うん」
「約束…だよ」
ソフィはそう言うと、もう眠ってしまった。私がいろんなこと、考えてたのがわかっちゃったのかな。ソフィの前では、隠し事はしたくない。でもこの事だけは…。ごめんね、ソフィ…。
次の日、目が覚めると隣にソフィはいなかった。部屋の外がなんだか騒がしい気がする。私は着替えて部屋の外へ出る。
「あ…アスベル」
「ああ、アイリス。おはよう」
「おはよう。何かあったの?」
「昔から親好のあった貴族の結婚式が行われるそうなんだ。だからそのお祝いを…な」
「…そっか」
「何でもオイゲン総統閣下の甥っ子らしい。そんな人と付き合いがあったんだな、親父は」
アスベルは何かを思い出すようにそう言う。私は…何て言っていいのかわからなかった。
「だから、今日はたぶん家に帰ってこれないんだ。せっかく来てくれたのにすまないな」
「ううん、平気だよ」
「また、すぐ来るんだろ?その時ゆっくりしような」
アスベルは私の頭をぽんぽんと軽く叩いて微笑む。こういうとこが、女の子を勘違いさせちゃうんだよなあ…。
「…どうした。そんな顔して」
アスベルは少し笑っている。
「何笑ってるの…!」
私はアスベルの肩を軽く押した。アスベルはふらりとよろける。
「ちょっと…大丈夫?」
「ああ。アイリスのか弱い力じゃ俺は倒せないよ」
アスベルはそう言うと、またなと言って執務室に入ってしまった。
「…ばいばい、アスベル」
それから私はソフィと2人でご飯を食べた。ソフィはずっと私のそばを離れなかった。
そして、あっという間に私が帰る時間になってしまった。
「 アイリス、もう帰っちゃうの?」
「うん、ごめんねソフィ。…また遊びに来るから」
「また、っていつ?」
「そうだなあ…1ヶ月くらい後かな」
ソフィは少し悲しそうな顔をする。こんな顔、させたくなかった。
「アイリス、これもらって」
「これ…クロソフィ?」
「1番綺麗なの選んできたよ」
「ありがとう…!」
「お手紙書いてね」
「うん。私もソフィみたいにお花育てようかな」
ソフィにそう言うと、笑ってくれた。私はソフィに手をふって亀車に乗る。…もう、ラントに来ることなんて…ないだろう。
「…ただいま戻りました」
「おかえり、アイリス」
これから私が住む家のドアを開けると、男の人が出迎えてくれる。彼は、…私の婚約者。
「満足した?」
「…ええ」
私はその人の横を通りすぎようとする。でも、その人は私の腕をつかんだ。
「何か、ご用ですか」
「久しぶりに帰ってきたんだから、一緒に食事でもしようか」
「…疲れているので、今日は休みます」
私は腕を振り払おうとしたけど、出来なかった。彼に強引に私を壁に押さえつける。
「…っ…」
「君は、その美しさが取り柄なんだ」
その人の手が私の頬を撫でる。…気持ちが悪くて、鳥肌がたった。
「君はただ笑ってそこにいればいいんだ」
その人は笑って、私から離れた。もう逃げられないのはわかってるけど、逃げたい。ラントに、戻りたい。
鮮やかすぎた華(美しすぎたために、囚われた)
(それが事実ならば)
(いっそ生まれてこなければよかった)
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