※ヒロインちゃんはアスベルの騎士学校時代の同級生
「よし!これでシャトルの準備はオッ ケーだよ!あとは皆の準備が出来次第 、ばびょーんって飛んでくだけだよ」
「パスカルお疲れ様」
「アイリスこそお疲れ様!いやーほんと助かったよー」
「よかった。それじゃあラントに戻ろっか。結構時間かかっちゃったし…出発は明日になるかな?」
「そうだね〜。ソフィの状態を見るとなるべく早くフォドラに行ったほうがいいと思うけど、夜だと飛ぶタイミングも難しいしね」
私はパスカルと歩きながら、これからのことについて話す。パスカルとはついさっきまでフォドラに飛ぶためのシャトルを直していた。ポアソンにも手伝ってもらっていたけど、ポアソンは長老さんの用事で先に帰ってしまっていた。私はほとんど知識はないけれど、パスカルが教えてくれたから何とかついていけた。
「ま、詳しいことはラントで皆と相談してからだね!」
「そうだね」
ソフィのことはとても心配。だけど、ソフィを助けるための私たちが準備ができていないと、何の意味もなくなってしまう。
ラントのアスベルの家に着くと、フレデリックさんが皆は執務室にいると教えてくれた。執務室に入ると、皆がテーブルを囲んで座っていた。
「パスカル!アイリス!」
シェリアが立ち上がる。
「シャトルは直ったんだな」
教官がじっとこちらを見つめる。
「ではこれでいつでも出発できますね」
ヒューバートが頷きながらそう言う。
「出発は明日の朝にしよう」
アスベルは皆を見てそう言った。皆もうなずいた。そして今日は解散となった。私は客室に泊まらせてもらうことになっている。パスカルと同室のはずだけど、パスカルは部屋にはまだいなかった。私も外へ出る。外へ出ると、シェリアが歩いているのが見えた。
「シェリア!」
シェリアと話をしたくて大声で呼び止める。シェリアは驚いたように振り向いて微笑む。
「そこに座りましょうか」
「うん。ありがとう」
噴水のそばのベンチに並んで座る。シェリアは私がなにかを話したい、って思ったことが伝わったのかま黙って座ってくれている。
「アスベルの家ってすごいよね」
「急にどうしたの?」
シェリアはくすりと笑う。
「噴水なんて、普通のお家にはないよ」
「確かにそうね。領主様だもの」
「…シェリアは、こわくないの?」
「明日のこと?」
シェリアは少し考えてから口を開く。
「それは…こわいわよ」
「じゃあ、何で行くの。ここで待つって言っても、誰も責めないよ?」
「…そうね。昔の私ならそうしていたと思うわ」
シェリアは髪を耳にかけながらそう言う。シェリアの髪は綺麗。美人だし、治癒術もすごいし、大人。
「どうして今は行くの?」
「一番はソフィを助けたいからよ。あとは…そうね、アスベルが心配だからかな 」
「…アスベル、が?」
「そう。アスベルってソフィのことになるとすぐにむきになっちゃうでしょ?だから、私の治癒術が少しは必要だと思うの」
「そっか。シェリアはアスベルのことが好きなんだね」
「ちょっと…アイリス!?」
「大丈夫!誰にも言わないよ。だからアスベルのところに行ってあげて」
「もう…そう言う問題じゃないの!…アイリス、まだ少しだけ時間はあるわ。無理することないのよ」
「ありがとう、シェリア。おやすみ!」
シェリアは手を振って去っていった。さっきもアスベルに会いに家を出たんだろうな。お似合いだもん…あの二人。
「…私には、そこまでできないよ」
好きな人のために、どんな危険が潜んでいるかもわからない場所へ命をかけていくなんて…。私にはみたいな勇気は、ない。
「もう寝よう…」
私は立ち上がって歩こうとすると、何かにつまずいて転んでしまう。
「痛っ!」
…ほんと情けない。転んだ体勢のままそこにうずくまっていると、足音が聞こえる。
「…アイリス?」
教官の声だった。教官は大丈夫かと言って手を差し伸べてくれる。…さすが教官。
「……私、教官にしようかな」
「何の話だ」
「何でもないです」
私は教官に一礼してから立ち去る。でも、教官に呼び止められて、立ち止まった。
「悩んでるのか」
「いえ、そういうわけではないです」
「嘘をつくな。お前は昔から悩んでるときにはよく転んでいた」
「な…!」
「たまには自分の気持ちに正直に行動してみたらどうだ?お前は剣術の腕は一流だが、他が駄目だからな」
「それ誉めてるんですか…けなしてるんですか…」
「ははは!誉めてんだよ。…ま、気長に頑張れよ」
教官は私の頭をぽんぽんと撫でて(叩いて)行ってしまった。
「自分の気持ちに…正直に」
それが出来ていたらこんなに苦労してませんよ…教官。私は自分の客室へ戻った。パスカルはもう寝ていて、私も寝ようとベッドへ入った。
「…ん…」
目が覚めると、まだ朝早いみたいだった。出発はまだだと思うから、私は起きて着替えて外へ出た。
早朝の空気は気持ちよくて、気分も晴れる気がした。町を歩いていると、何人かの人とすれ違う。ここでは普通の生活が何の問題もなく進んでいく。
「…私も…普通に…」
そう言いかけてやめた。私に普通の生活はあっていない。騎士として、皆の仲間として敵に向かっていくほうが何倍も自分にあっている。
そんなことを考えていると、いつの間にかラントをでていたみたいで魔物があらわれる。ただ出てきただけだから、武器なんて持っていない。私は素手で魔物と戦う。凶暴化した魔物と素手で戦うのはさすがにきつい。そして気を取られていると、つまずいて転んでしまう。…こんな時に…!目の前まで魔物が来ていて、もう駄目かなと思った。行きたくない…とか、そんなこと考えてたからこうなるんだ。もう…皆とは一緒にいけない。…そう、思ったときだった。
「魔王炎撃覇!」
目の前の魔物が一掃される。真っ白な服が見える。アスベル、だった。
「アイリス!大丈夫か?」
「アスベル…」
「怪我は!?何で一人で出ていこうとしたんだよ!」
「怪我は…ないよ」
「本当か?」
アスベルは私のことを起き上がらせる。肩に手を回されて、…すごく密着している。
「…膝、怪我してるじゃないか」
「あ…それは、転んじゃって」
「は?転んだ?…ぷっ…あはははは!」
「な、何で笑うの!」
「いや、お前らしいなと思って」
アスベルがふわりと笑う。その笑顔に胸が締め付けられる。その笑顔が、私だけのものになったらいい…のに。私はアスベルの手を借りて立ち上がる。
「ところで、何でこんなところにいたんだ?」
「えっと…考え事してたらここにいた」
「…じゃあ、俺達が嫌になったわけじゃないんだな?」
「当たり前だよ!」
つい大声を出してしまった。アスベルは不思議そうな顔をしている。
「…どうして、そう思ったの?」
「ああ…教官がアイリスが悩んでたって言ってた。そのことが気になっていたら、家から出て行くアイリスが見えたんだ。…だから、アイリスがいなくなったらどうしようって思った」
「…アスベルは馬鹿だなあ」
「ば…馬鹿…?」
馬鹿だよ…ほんと。そんなこと言われたら嬉しくて仕方ないよ。
「え、アイリス…何で泣いてるんだ…?」
「ふふふ…秘密」
アスベルは困ったような顔をした。一晩の、少しの間だけでも私のことを考えてくれたことが、すごく嬉しかった。
「アスベル、戻ろう?皆が起きてるかもしれないよ」
「そうだな。アイリスが怪我したって聞いたらシェリアに何て言われるか…」
「そのときは、私がフォローしたげるよ」
「約束だからな」
私はアスベルを追い抜いて歩く。そして小さく呟いた。
「…好きだよ、アスベル」
「ん?何か言ったか?」
「言ってないよ」
私は笑った。アスベルも、誰も知らない私の小さな告白。それを心にしまって、私はこれからの道を歩く。
そうして世界は
平和になる
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