※大学生設定です















私と堅ちゃんは幼稚園の頃から一緒だった。家が近くてお母さん同士が仲良しで、自然と私たちも仲良くなっていった。幼稚園の時は堅ちゃんよりも私の方がやんちゃでよく怪我をして、堅ちゃんが慰めてくれた。小学生の時は鉄棒の逆上がりが出来なかったり、縄跳びの二重跳びが出来なかったり、バスケのフリースローが出来なかったりした私の練習に付き合ってくれた堅ちゃんのお陰で私の通知表にCが並ぶことはなかった。中学生の時はじゃんけんで負けて押し付けられた文化祭委員の仕事を部活で疲れてるのにも関わらず夜遅くまで手伝ってくれたり、修学旅行で迷子になった時も見つけてくれたり、堅ちゃんのお陰で数々の苦難を乗り越えられたと言っても過言ではない。…それなのに。


「伊達工業高校…?」

「そ。伊達工は鉄壁って呼ばれてて、ブロックが超つえーの」

「堅ちゃんはバレーのために伊達工に行くの?」

「んー、まあそういうことになるかな。だから咲子とは…」

「私も伊達工に行く!」

「はあ?」

「私は私のために伊達工行く!」


…そう心に誓ったけれど。堅ちゃんにはちゃんと自分で進路決めろと怒られて、お母さんには工業高校なんで男の子しか行かないわよと怒られて、私の決心は簡単に折れてしまった。中学を卒業すると堅ちゃんは宣言通り伊達工に行き、バレーを続けていた。私はせめて距離だけでもと思って伊達工の近くの女子高に通ったけれど、部活に一生懸命な堅ちゃんと時間が合うはずもなく、私の高校生活の中で堅ちゃんの思い出は無いに等しかった。

そんなこんなで堅ちゃんとは会わない日々が続いたけれど、私はお母さん伝いに堅ちゃんの進路を聞き出した。工業高校だから就職してしまうのかと思ったけれど大学のバレー部からお声がかかったため、進学するらしい。私はこのチャンスを逃すまいと必死に勉強した。大好きだったミルクティーもクレープも、全部封印して。その成果もあったのかどうかはわからないけれど、私は無事に堅ちゃんと同じ大学に行くことが出来た。


「堅ちゃん!」


キャンパスで堅ちゃんを見つけて嬉しくなってつい名前を呼んでしまったけれど。堅ちゃんはまた違う女の人を隣に連れて歩いていた。


「(綺麗な人…)」


さらさらな髪にすらっと長い手足。180cmを超える堅ちゃんの隣に並んでいても絵になる人。堅ちゃんは昔からモテモテで、いつも一緒にいる私は堅ちゃんの彼女さんには疎まれていた。それでも私には、"幼なじみ"っていう特権があった。それは今も昔も一緒で。堅ちゃんは金曜日の夜は、バレー部の飲み会があっても、伊達工の人に誘われても、どんな綺麗な人に誘われても、私と一緒に過ごしてくれた。


「(明日は金曜日。堅ちゃんに聞いてみよう)」


金曜日になると、大学に近い場所に住んでいる堅ちゃんから連絡が来る。それは一言で、「家開けた」と。最初にそう来た時は、彼女さんと間違えたのって聞き返しちゃったけど、今ではその一言のメッセージを心待ちにしている私がいる。今日もそのメッセージを確認してから堅ちゃんの部屋に向かう。呼び出しボタンを押すと、堅ちゃんが部屋から顔を出す。


「よ、咲子」

「堅ちゃん!お邪魔します」


靴を脱いでお部屋にお邪魔する。さっきスーパーで買ってきたご飯の材料を冷蔵庫に入れる。


「今日何作んの?」

「今日はハンバーグだよ」

「まじか!」


堅ちゃんは嬉しそうに部屋に戻って行く。私はそのままキッチンで料理を始めた。高校生の時に練習しておいてよかったと思う。堅ちゃんはお部屋でごろごろしながらごはんができるのを待っている。そしてご飯ができたよと声を掛けると一緒に運んでくれる。全部運び終わって、私たちは向かい合って座り、手を合わせる。


「「いただきます」」


堅ちゃんはいつもご飯を美味しそうに食べてくれる。時々焦がしちゃっても、ご飯を残したことはない。


「やっぱり咲子のご飯は上手いな」

「ありがとう」


顔がにやけそうになるのを必死にこらえてご飯を食べる。今日のハンバーグは中々上手に出来た気がする。そしてご飯を食べ終わり、食器も簡単に片付けたらDVDを見てだらだら過ごすのが流れになっている。DVDを見ながらベッドでスマホをいじっている堅ちゃんに、聞きたかったことを聞いてみる。


「ねえ、堅ちゃん」

「んー?」

「堅ちゃんは、大学でいつも違う女の人と歩いてるよね」


堅ちゃんはスマホをいじる手を止めないし、こっちも見てくれない。


「その人たちは…彼女さんなの?…それとも、」


堅ちゃんは体を起こしてこっちを見た。でもその目は冷たくて、ふれちゃいけないことにふれてしまったのは明白だった。


「それとも、何?」

「か…体だけの関係なのかなって、思って…」

「それを知って咲子はどうすんの?」


堅ちゃんはベッドから降りて来て、私の前に来た。にこにこした堅ちゃんの顔が近くて、でもその笑顔は仮面みたいで。


「もしそうなら…堅ちゃんも女の人も傷ついちゃ…きゃっ」


何が起こったのか一瞬わからなかったけれど、私は堅ちゃんに押し倒されていた。私の頭とか背中は床にくっついていて、顔の横に堅ちゃんの手があった。堅ちゃんは私を見下ろしていて、その表情はやっぱり冷たかった。


「…じゃあ、咲子が代わりになってくれんの?」

「かわ…り…?」

「そう。あいつらの代わり」


堅ちゃんはそう言って私の頬から首筋を、長い指ですうっと撫でた。なんとも言えない感覚が全身を巡る。心臓が音を立ててどくどくとしてる。こんな状況で、ドキドキしてるなんて。


「私は…、堅ちゃんのためならなんでも出来るよ」

「…へえ」

「だから私、」


覚悟を決める。昔みたいに悪戯が好きで意地の悪いことも言うけど、本当は優しくてかっこいい堅ちゃんを、ほんとの堅ちゃんを見てもらいたいから。


「幼なじみ、やめる」


堅ちゃんが少し目を見開いた気がした。私は、幼なじみっていう特権にまみれた甘い世界を壊す。


「私は、1人の女の子として堅ちゃんに接する。だから、どんなひどいことしても、どんなこと言ってもいいんだよ。幼なじみだからって、優しくする必要なんてないよ」


堅ちゃんは力が抜けたようにその場に座り込んだ。私は体勢を起こして、堅ちゃんのことをそっと抱きしめた。


「辛くなったら、私を頼って。堅ちゃんのためなら…どんなこともする」


そう、幼い頃から私を助けてくれたあなたのためなら。











(子供の夢はもう終わり)
(苦しい道を選んで行こう)

























あとがき


お久しぶりの更新で申し訳ないです。最近気になってる二口くんで1話でした。中編にしたいくらい書き足りてないことがあります。

2015年1月18日 羽月

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