ネタバレ、捏造あり
クリア済み推奨
ぽかぽかと暖かい南の島の陽気にまどろんでいると、ふわりと小さな風が起きた。それは私の隣に彼が来たから。
「また駄目だったの?」
「…うっせー」
彼は私の隣に座ると自分の膝に顔を埋めた。こうして毎日、ただ2人で肩を並べて時間を過ごす。しばらくすると彼は唐突に顔をあげた。
「…どうしたの」
「お前はさ、わかってたんだろ?」
彼は、左右田和一は鋭い瞳で私のことを見つめた。"わかってた"というのは私の才能のことを言ってるんだろう。
「"超高校級の予言者"だもんな」
彼の言う通り、私はそう呼ばれている。毎日夢を見て、その夢がただ現実に起きると言う能力。他の皆とは違って、私自身が何か特化しているわけではない能力。
「そうだね。ソニアは左右田の誘いを断って、ストロベリーハウスの3階の庭園に行ったっていうとこまでは知ってるよ」
私は目の前の海を見つめながらそう言った。左右田は私のことをなにも言わずに見つめている。
「左右田がここに来ることは知らなかったけどね」
「ほんとに一部分しか予知できねーんだな」
左右田は皮肉っぽくそう言う。
「…全部、教えてほしかった?」
「は?」
「ここで殺し合いが起きることとか、最初の犠牲は十神くんだったこととか、九頭龍と辺古山さんが関係があったこととか、蜜柑ちゃんが壊れちゃってたこととか、」
「もうやめろ…」
「ドッキリハウスに閉じ込められちゃったこととか、田中が殺人犯だったこととか、ソニアが田中を…」
「やめてくれ!!」
左右田は私を押し倒した。…なんて甘いものじゃない。肩を砂浜に押し付けて、痛みで私を黙らせようとする。痛い、痛いけど、左右田の顔を見たらそんなことは言えなくなった。
「苦しそう、だね」
「…黙れ」
「苦しいよね。どう頑張ったって死んじゃった人には勝てないもんね。死んじゃった田中には」
そう言うとより一層力が込められる。左右田の顔も歪んでいく。そんな顔、させたいわけじゃなかったのに。
「…ソニアは、何を思ってるんだろうね」
「…」
「自分が惹かれた人が好んでいた場所で、何を考えるのかな」
「…何が言いたい?」
「好きな人が殺人犯だと知ったときの気持ち、私には知ることができない。だから、知りたいだけだよ。私は、現実に起きることしか予知することができないから」
「…知らなくていいんだよ、そんな気持ち。知ったら…知っちまったら正気じゃいられねーだろ」
「そう、かな。自分の見る目の無さを知れるから、いいんじゃない?」
「お前…!ソニアさんがどんな気持ちでいるか、わかんねえのかよ!」
左右田は、私の首を絞め始めた。
「ふ…ふふっ……」
「な…に…笑ってんだよ」
「今なら、…わかるよ。…好きな人が殺人者だったと知ったときの気持ち…」
私は微笑んでそう言った。すると左右田の力は緩んでいった。
「何だよ…それ…」
「本気だよ、私は。左右田が好き」
左右田が息を呑むのがわかった。また表情が歪んでいく。彼は、優しすぎるんだ。
「返事は、いらないよ。左右田の気持ちは痛いほど知ってるから」
私がゆっくり微笑むと、左右田は力が抜けたように砂浜に座り込んだ。左右田の重さがなくなってふわふわとした感覚に陥る。
「ねえ、どうして私が左右田の話を聞いてたと思う?どうして左右田が嬉しそうにソニアのことを話すのを聞いてたと思う?どうして、だと思う?」
「…そんなの…俺に聞くなよ…!」
左右田は自分の帽子を深く深くかぶり、頭を抱えた。彼は考えるのを放棄して自分の中へと閉じこもる。私は彼に近づいて、その頬に手を当てた。
「好きだからだよ、左右田が」
左右田の目には涙が浮かんでいた。左右田と目が合う。私はたぶん、微笑んでいたと思う。その瞬間だけ時が止まったようだった。周りの音も聞こえなくなる。
「ね、理由わかった?」
「…わかんねーよ……」
「じゃあ、何度も言ってあげる。毎日言ってあげる」
私は顔を近づけて、そっと彼の唇に触れた。彼の見た目とは正反対で温かくて柔らかい感触が伝わってきた。伝わると同時に、左右田自身が私から離れた。
「俺は…っ…お前のこと、何にもわかってなかったんだな 」
そう言い残して、走り去っていった。左右田の頬は赤く染まっていたようにも、青く染まっていたようにも見えた。
「私なら、絶対に離したりしないのに」
花びら彩られた
感情の中で
(白く生きれば生きるほど)
(黒に染まりやすくなる)
(そんな花びらのような私たち)
あとがき
ここまで読んでくださりありがとうございました。初めてのロンパ夢でしたが、幸せになれない右田くんがかわいいなあなんて考えてたらこんなことに…。
2014/02/26 羽月
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