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照屋さん


訓練、結構楽しいかもしれない。

優希はずず、とジュースを飲みながらスマホで調べ物をする。目当てのものを見つけたのか、画面を見ながらノートをまとめていった。今日の隠密訓練では、一位を取ることができた。トリオン兵の動きの分析はあらかた完璧といったところで、隠れるポイントもわかってきた。

地形踏破訓練も、あと少しで一位が取れそうなところまで来た。あとは探知追跡訓練と……。優希の訓練スタイルは、もっぱらノートとペンだった。情報を集めて、自分の弱点と考慮しつつ対策を練る。あいにく自分には、対策の時間はいくらでもあるのだ。遊びに行く友達がいないから……という暗い事は心の中から追い出し、ペンを走らせて上機嫌で情報をまとめていく。

「……あ」

この人、ポイント高い。まだみんなが1000点台でいる中、2000点台の人が数人いる。たぶんこういう人がそのうちB級にあがるのかもしれない。訓練にあたるにおいて、優希はC級の情報も自然と集めるようになっていた。

……いいなあ。心の中で羨ましがった。毎週の訓練でいくら一位を取ったってせいぜい1つ20ポイントだ。みんなとっくに、個人ランク戦でポイントを稼いでいる。それを証拠に、今の自分はまだまだ1000点台前半だ。ランク戦を、やりたくないわけじゃない。ランク戦ブースは相手と話さなくていい(と近くの人が話してるのを聞いた)らしいし、前回と違って全員に見られるなんてこともない。

だけど、と優希は今度はランク戦の概要をまとめたページを見る。C級ランク戦は仮想戦場での個人戦。相手の情報は武器とポイントだけが表示され、相手はランダム。そこが優希に引っかかりを与えていた。相手がわからない、それはすなわち対策が練れないことを示していた。

それでもこのままではB級どころか、C級隊員としいても下の部類である。なんとかして上に上がらなければ。優希は色々考えたが、とりあえずは対策をしてみるかと自分の訓練用トリガーを起動した。

優希が使うのはスコーピオン。軽さと自由度が売りの攻撃手用トリガー。これを使う相手なら対策は……。くるくると回しながら、角度を変えながら重さや変形を調べていく。たしかこれは軽い代わりにもろかったから、攻撃手同士ならあまり刃は交えないで軽さを利用して相手の懐に入って。

「なにしてるの?」
「ひやぁ!!??」

がたたたっ!!と椅子から転げ落ちた優希に「だ、大丈夫!?」と手が差し出された。「だ、だひ、だひじょ、です」そう言って視線を外しながら手を取ろうとすると、右手にしっかりとスコーピオンがあった。なんとか気合で手放していなかったらしい。あわてて背に隠して立ち上がる。手を取らなかったから気を悪くしてるかもしれない、と思い少しだけ女の子のほうを見ると、にっこりと笑ってくれた。そこで初めて、相手が照屋であることに気づく

て、照屋さんだ……!優希は心の中で言った。照屋は今期のC級の中でもかなりの逸材で、もちろんポイントも2000点を超している。そ、そんな彼女が一体なにを。

「なにしてたの?」
「あ、あ、の、すこぉぴおんを……」
「スコーピオン?」
「み、見てて。その……ど、どんなトリガーなのきゃ」

か、噛んだ。

「自分のなのに?」
「あ、あいてになっつ、なったら、どうなのかな……て……」

尻すぼみに「その……」「あの……」と小さくつぶやく。照屋は少しだけ意味を考えて、「ランク戦でスコーピオンで戦う相手がいたらどう戦うかってこと?」と優希の発言を要約した。

「そ、っそう」

優希の言葉に、照屋はそうなんだ!となぜだか嬉しそうに言った。

「よかった。久野さん全然ランク戦で見ないから、戦わないのかと思ってた」
「……え?」
「でもやっぱりランク戦出るんだ! いつ出るの?戦ってみたかったの!」

て、照屋さんがわたしと……?いやそもそもなんで名前……。困惑しながら、「な、なんで……?」と疑問を口にする。

「覚えてない? 私入隊式で会ったんだけど……」
「…ご……ごめんなさい……」

まったく記憶にない。なんで覚えてないのわたし。相手は照屋さんなのに。こんなにかわいいのに。

「ううん、仕方ないよ。あなたすごい集中力だったもん」
「しゅうちゅ……?」
「みんなが他の人の戦闘について話してる中、久野さんはずっと集中してたし……」
「……あっ」

優希の声に、思い出してくれた?と照屋は嬉しそうだ。照屋は、初日の戦闘訓練での優希を、集中していたのだと勘違いしたらしい。もしかして、優希に順番を教えてくれたのは彼女なのかもしれない。顔は覚えていないが。

「あ、あのあの、あ、ちが……あれは……き、きんちょう、してて……」
「そうなの?」
「そ、そう……」

誤解は解かねばと伝える。それと同時に、照屋にがっかりさせてしまったかもしれない、と少し落ち込む。しかし照屋は「ねえ」と目の前でトリガーを起動した。

「これも見てくれる?」

突撃銃型の銃手用トリガー。手渡され、「え、み、みていい、の?」と驚いた優希が聞いた。それに対し、照屋は「もちろん」と笑った。

「だって他のも調べたら、久野さんランク戦出てくれるでしょ?」

机に乗っていたノートを指さされる。スコーピオンについてまとめたページが、開いたままになっていた。