×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -









新入り


「ふ……ふふふみきゃちゃん。いま、すか」
「文香ー、お客さんよー」

「あ、優希」宇井の呼びかけで奥から出てきた照屋の姿に、「あ、あの、これ」とがさっと持っていた袋を見せる。ビニールから透けるオレンジ色に気付いたのか、みかん? と照屋の目が輝く。

「わ! すごいいっぱい、どうしたの?」
「おばさんが、たくさん送ってくれたから、隊のみんなで食べるかなぁって……」
「食べる食べる! ありがとう!」

嬉しそうにする照屋に、よかったとほっとする。いつもは作戦室に来ることもないし、突然来たら迷惑かなと思っていたけれど、照屋も近くにいた宇井も「美味しそう」と嬉しそうだ。ふふ、と小さく笑うと、「あ」と何かを思いついたのか照屋が優希の手を引いた。

「ど、どうしたの」
「せっかくだから、柿崎さんに直接渡してみたら?」
「えっええ……!?」

引かれるままに作戦室に足を踏み入れてしまった優希に、そんなすごいことを照屋は言った。優希は前から、異様に柿崎から逃れようとすることが多い。それは年上だとか隊長だとか色々あるが、なにより元嵐山隊であることが効いていた。優希は元々、嵐山隊の大ファンなのだ。両手を上げて無理だと降参するも、「私、優希にもっと柿崎さんと仲良くなって欲しいなー」と照屋はにこにこしている。こういう顔をする照屋は、意外と押しが強いことを、これまでの経験で優希は知っていた。

「虎太郎と真登華とは少し慣れてきたし、大丈夫だよ」
「だっだって隊長で年上……」
「だーいじょうぶ。影浦さんと同じだって」
「お? 久野来たのか!」
「あああ……!」

奥に押されて行き、無事柿崎の前まで運ばれてしまった優希が狼狽えた声を上げる。照屋を通して優希の事情をなんとなく知っている柿崎は、照屋と同じくにこにこしていた。

「どうした?」
「あっ……あの、み、みか……みっ、かんを」
「持ってきてくれたのか?」
「はっ、はい」

「ありがとな! すげー嬉しい!」「あうっ……」キラキラとした笑顔でビニール袋を受け取られ、思わず目を細めた。ま、まぶしい……隊長にお礼を言われてしまった……。あわあわとしながらも柿崎に渡せた優希に、微笑ましそうに照屋たちが小さく拍手をしていた。





影浦隊の人たちにもおすそ分けしよう、と用意していたもう一つのビニール袋を持って、今度は影浦隊の作戦室を目指す。歩きながら、先ほどの一件を思い出して、皆さん優しいなぁ、としみじみ思った。最近ではなんだか、柿崎隊全員から甘やかされているような気がする。年下の巴くんまで、「久野さん、すごいですね!」と褒めてくれた。これでいいのだろうか……一応年上なのに……。

考えているうちについた影浦隊の作戦室のベルを押す。袋一杯に入ったみかんが重たいので、がさっと持ち直して少し待つ。うぃーん、と扉が開く。だいたいこういうときに出てくるのは北添なので、視線は少し上にして待っていた。の、だが。今日はその視線から随分と下に、顔があった。

「……」
「……」
「……」
「ま、まちがえましたぁ……」

互いの沈黙の後、そう言って優希がすう……っとスライドするように扉の前から消えた。それから、近くにあった壁の影に隠れる。ぶわっ! 離れてから、冷や汗が吹きだした。

し、知らない人だった……! どきどきと胸を押さえる。先ほど中から出てきたのは、自分よりも年下に見えるくらいに小さな、男の子だった。それも、見たことがない子。作戦室が移動することは偶にあるとは聞いていたが、すごく、すごくすごくびっくりした。驚きで飛び跳ねなくてよかった。あの男の子のほうがびっくりしてしまう。

「なにしてんだお前」
「うああっ!?」
「よー優希」

相変わらずびびり倒してんなぁ。聞き覚えのある声に振り返ると、仁礼がにひひと笑っていた。「に、にれ、さん……」小さく呼ぶ。北添が後ろから「ゾエさんもいるよ〜〜」と顔をのぞかせた。

「だから、なにしてんだって聞いてんだろ」
「あ、は、はい……」
「そんな言い方しなくてもいーじゃねーか。なあ? こえーよなぁ優希」
「い、いえ、そんな」
「あっ! 袋の中なんだそれ!」
「うるっせぇな……」

思わず影浦が顔をしかめるが、そんな声は気にせず仁礼が見せて見せてと優希から袋をもらった。中身がなんだかわかると、「みかん!」と嬉しそうに言っていた。

「みかん、沢山、もらって。お、おすそわけしようかと……」
「いいねぇー。やっぱこたつにはみかんだろみかん!」
「えっ……こ、こたつあるんですか……?」
「最近ヒカリちゃんが持ち込んだの。冬はこたつが無きゃ働けないって言って」
「優希入ってくか? みかん食べよーぜ!」

楽しそうに仁礼が優希の手を握って歩き出す。「わ、悪いですよ」と言う優希に「いーっていーって」とにこにこして仁礼がある扉の前で立ち止まる。しかし優希は、あれ、と気付き「ち、違いますよ」と仁礼を止めた。

「作戦室、変わったんですよね……?」
「変わった? なにが?」

そう言って仁礼が自分のトリガーを扉にかざした。だ、だって中に知らない人が……そう思っていたのに、作戦室の扉は仁礼のトリガーでちゃんと開く。それからやっぱり、中には知らない子がいた。





「あ、新しい隊員……?」事情を説明された優希が、知らない子、改め、絵馬ユズルくんを見る。そ、と仁礼が頷いた。

「生意気だけど優希より年下だから、仲良くしてやってくれな」
「は、はじ、めまして」
「……初めまして」

クールな反応に、後輩の知り合いが巴しかいない優希はなんだか巴くんとはだいぶ違う子だなぁ、と思った。挨拶もそこそこに、仁礼がこっちこっち、とこたつへと誘導する。本当に作戦室の中にこたつがあるのを見て、「わあ……!」と驚く。

「ここにみかんを置いて……おお! めっちゃこたつっぽくなった!」
「ヒカリちゃん。元々こたつだよ」
「雰囲気は大事だろ」

ほれほれ座れ、と優希をこたつに座らせる。そのまま一緒に入ろうとした仁礼だったが、あることに気付くと「まてよ?」と立ち止まった。

「ユズル! ユズルこっちこい!」
「なに?」

挨拶もしたし、とソファの方に座っていた絵馬を仁礼が呼ぶ。優希もなんだろう? と思っていると、優希の隣に座るように指示が出た。理由は、4人しか入れないこたつだからチビが並ぶように、とのことだ。「オレ別に入らなくていいけど」と絵馬が断ったが、いいからこい! と先輩からの指示を受けた。

「ご、ごめんね……?」
「……別に、あんたも大変だね」

自分のせいで絵馬くんの席が狭くなってしまった……と縮こまって端に寄る優希に「そんなにあけなくていいけど」と絵馬が言う。後輩ふたりがぎゅうっと並ぶのを見て、「かわいいねぇ」と微笑ましそうに北添が言った。

「よしかわいい! ゾエ! 写真!」
「はいはい」

ぱしゃぱしゃと並ぶ後輩の写真を撮る二人に、「馬鹿ばっかだな……」と影浦がぼやいた。