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▼ お揃いなんて照れちゃう

頭を下げるC級隊員に、もうするなよ、と言って風間はその場を離れた。背中越しに「本当にすみませんでした!!」という声が聞こえてきたため、十分反省はしているのだろう。

一応は仕事をしている立場ではあるが、ボーダーの隊員の多くは中高生だった。悪ふざけで走って人にぶつかったなどは特に叱るつもりは風間にない。ただ、一つだけ言えるとするならば飲み物を持っていないときにぶつかってほしかったと思う。

自分の服を見ると、染みついたコーヒー牛乳が非常に目に付いた。丁度今日が白い服を着ていたというのもタイミングが悪いし、先ほど売店で買ったばかりでほとんど減っていなかったというのもついていない。

自分は利用したことは無いが、ボーダーに洗濯機置き場などはあるのだろうか。だとするとどこに行けば……と少し考えていると、向こうの廊下を歩いている名前と目が合った。

「風間さーん」とひらひら手を振って名前が近付いてきた。名前は人懐こいほうだったので、隊は違うが風間にもよく懐いていた。風間も、一応軽く手を挙げておく。

近くに来ると風間の服の違和感に気付いたらしく、「あららぁ」と名前が口を開いた。

「また随分と派手にやりましたね」
「やはりわかるか」
「まあ、ど真ん中に大きな染みがあったらわかりますね」

どうかしたんですか?と聞いてきた名前にいきさつを話すと「風間さんにぶつかった隊員はトラウマだったでしょうね……」とC級隊員のほうに同情していた。

「でもこれ放っとくと染みになりますよね。洗いましょうか?」
「洗える場所を知ってるのか?」
「え? いや、私の部屋ですよ」

逆に他に洗濯機あるとこあるんですか?と名前は首を傾げていた。言われて気付いたが、彼女はこの本部に住んでいる。ということは、生活に必要なものも彼女の部屋にはあるということだった。


▽▼▽


「いやぁ、丁度よかったです」

さすがにそこまでしてもらうのは、と断ろうとした所を名前は「いいからいいから」と風間を部屋に引っ張って来た。現在は洗面所からゴウンゴウンと洗濯機が稼動している音が聞こえていた。

「……なんだ、これは」
「出水くん考案“千発百中Tシャツ”でーす」

洗い終わるまでこれ着ててください、と新品の着替えを渡されたのはいいのだが、それを着てみると前面に「千発百中」という、命中率の低い文字がプリントされていた。

「こないだの商品案のアンケートの結果出水くんのが採用になってうちの隊にサンプルが来たんですけど、一人5枚もくれたもんだから余っちゃって。助かりました」

確かに、先日各隊のところにボーダーのグッズ案を考えるアンケートが来ていた。風間隊はあまりそういうのに興味を示す者がいなかったため、確か宇佐美が書いて出してくれていたはずだと思い出す。

「私が出した“菓子美味”は選考落ちしました」
「まあそれは、トリオンなにも関係ないからな」
「お菓子おいしいのに?」
「だから関係ないだろ」

おいしいのに……と言いながら名前はぽりぽりとポッキーを食べた。自分で作るだけでなく、彼女はお菓子というものが好きらしくよく口にしている場面を見かけていた。同級生の寺島のようにいずれ太るのではと、偶に心配になる。

「それはいいが……何故お前も着替えたんだ?」

洗濯機を借りて洗面所から出ると、先ほどまで制服だった名前も何故だかそのTシャツを着ていた。それを見て言うと、「面白いからに決まってるじゃないですか」とさも当然のように言われた。

「風間さん今日用事ないんですか? どこか行かないんですか?」
「隊長会議があるが」
「隊長会議……は着いていけないからなぁ」
「着いて来るつもりなのか」
「お揃い同士並ばないといけないじゃないですか」

どういう理屈なんだ。名前はどうやら楽しんでいるようで、「あ、なら模擬戦行きましょう!」と指を立てて提案してきた。まあ、楽しいのならいいか。風間は心の広い男だった。





「あれ風間さんじゃないか?」

C級ブース近くを通りがかった菊地原は、その言葉にぴくりと反応した。人の会話がうるさいためあまり模擬戦等の場所には行かないが、その言葉が出てくれば気になりもする。名字、という言葉も聞こえるので、どうやら名前と模擬戦をしているらしい。

ブースに行きモニターを見ると、二人が削り合って戦っているのが映っていた。

「風間隊って隠密隊だろ? なんでカメレオン使わないんだ?」聞こえてきた声に、見てわかんないのと菊地原は小さくぼやいた。

風間がカメレオンを使用するには名前の間合いから出なければならないが、勿論それを名前が見逃すこともないためほとんど使用していない。万能手が攻撃手より攻撃範囲が広いことを活かした戦闘だ。

もちろんそれをするには機動力の高い風間を抑えるだけの腕が必要となる。まあ、対人訓練の少ないC級にはわからないのか、と菊地原は納得した。

「いやー、やっぱ風間さんには勝ち越せないなぁ」

10本勝負が終わって、ブースから名前が出てきた。結果は7対3で風間の勝利となったわけなのだが、それでも十分な成績だろう。変なTシャツを着ているが、彼女は確かに実力者だった。

「……あれ? 菊地原くんじゃないか」

名前が菊地原に気付くと同時に、風間が入っていたブースの扉も開き、そしてギョッとした。何故だか風間までもが名前と同じ、よくわからない四字熟語のかかれたTシャツを着ていたのだ。

「……なにその格好」

風間とやった感想を聞こうと思っていた菊地原の頭からは完全にそのことは抜け落ち目の前に並ぶTシャツが気になって仕方なかった。名前はそのことに触れられて嬉しいのか「ふふふふふ」と不気味な笑い方をした。

「いいだろう。菊地原くんにもあげよう」
「わざわざ持ってきてたのか」
「風間さんが着てたらみんな興味示すと思ってたんで」

手渡されたTシャツの袋を菊地原が「え……なにこれ」と引いた目で見る。「出水くんの努力の結晶だよ」と名前は説明するが、全く持って意味が解らない。風間はTシャツで目立つことは特に気にしていないようで、「着心地はいいぞ」と菊地原に言った。

「ああ、でも二人にだけあげたらダメだよね」と謎の気遣いを発揮した名前に歌川と宇佐美の分も手渡される。「普通にいらないんだけど」と菊地原が言うと「ええ!?」と何故かひどく驚かれた。

「風間さんとお揃いなのに?」
「……いや、別に」
「年下には甘いが物には厳しいと噂の風間さんから着心地がいいと褒められた素晴らしいTシャツなのに?」
「おい待て。どこ情報だそれは」
「諏訪さんが夜になると風間さんはポストを殴る癖があるって言ってた」
「そうか、後で諏訪を殴っておく」
「ほら見て菊地原くん、みんなのアイドル風間さんと仲良くお話もできちゃうよ」
「変なキャッチコピーを付けるな」

ぐいぐいとした名前の文字通りの押し売りに、最終的には菊地原は「ええ……」と言いながら受け取ってしまった。よって名前の部屋に余っていたTシャツはまるごと風間隊のもとへと渡っていった。





「あれ〜? 出水くん、メディア室からなんかお中元みたいなの届いてるよ」
「なんすかこれ。グッズ売り上げ?」
「こないだのグッズ案のことじゃない?」
「あーそういや、こないだの隊長会議で風間さんがそれ着てたぞ」
「は!?」

後日、宇佐美がノリノリだったため風間隊全員が四字熟語Tシャツを着るという事案が発生し、あの風間隊がこぞって着ているらしいという宣伝効果により出水提出の四字熟語Tシャツはボーダー内で大変流行った。更に風間隊は攻撃手メインの隊だったため「なんでよりによって風間隊が……?」と更に謎は深まるばかりだった。

嵐山隊のグッズに次ぐほど大変売り上げが伸びていたそれのお礼として来たお中元を仲良く食べていると、ピロリンとメールが届いた。報復を受けたのか伸びている諏訪の上で真顔で風間がピースしている写真が添付されていて、不覚にも吹いた。

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