上映中にご用心。













「希空っちー!」

『あ、黄瀬くん!』




日曜日、黄瀬くんに誘われて駅の前に来た。
いつも女の子に騒がれてモテモテの彼に誘われてなんだか緊張してしまう。
クラスが一緒で席が近くなってから話すようになったけど
正直、三年間関わりなく終わると思っていた相手だし。
だから誘われた時はそりゃあ勿論、我が耳を疑いましたよ、はい




「来てくれたんスね」

『うん、そりゃ誘いを無視したりしないよ?どこいくの?』

「映画でもいこうかなって思うんスけど…」

『うん、じゃあいこっか!』





目的地も決まったことだし2人で並んで歩く
自慢じゃないけど男の人と2人でどこかにいくなんて経験がほとんどない私としてはドキドキもので、しかも相手はモデルの黄瀬くん。
すれ違う女の人たちが振り返る…
話しかけてくる人たちだって居たりして、もうそうなったらどうやって横に居ればいいのかわからない…

そのたびちょっと離れてみたりして…






「あれ、希空っちー?」






その声に反応して彼に近づいていく。
それに気づいた黄瀬くんが小走りで向かってきてくれた。






「どこいってたんスか…心配したんスよ?」

『あ、ごめんね?ちょっとお手洗い…』

「それなら1人で行かずに言ってくれればいいのに」

『黄瀬くん話してたから邪魔しちゃだめだと思って…』

「そんなのいいんスよ、今日は希空っちと遊んでるんスから」

『ありがと』





そうは言われても話してるのをわざわざ遮るほどの話題もないし
そんな図々しいことは私にはできない。
彼女でも無いわけだし、寧ろ話しかけてくる人達と何ら変わりない距離だと思う。






「あ、ついたっスよ?」

『やっぱり日曜日だから人いっぱいだね…』

「嫌?」

『ううん、平気。…なにみるの?チケットあるかな…』

「あ、チケット持ってるから大丈夫っス」

『あ、そうなんだ?へー、黄瀬くん恋愛ものなんてみるんだね…』

「なんか知り合いの人がくれたんスよ」





この映画はちょっとみたくて友達を誘おうかと思ってたからちょうどよかった。
でも、隣に居るのは黄瀬くんだし…なんだか緊張するなぁ

飲み物を買ってチケットを渡し中に入る。

入るタイミングが悪かったのかごちゃごちゃしてる…恋愛ものなだけに女の人が多い…
視線、気になるなぁ





「希空っち。」

『…え?』

「手。」

『ううん、平気っ』




隣を歩くのですら周りの視線が気になるのに、手なんて繋いだら大変な事になる…

怖いし、引け目に感じちゃうし…

今の私は端からみたらすごく挙動不審なことでしょう、そりゃおどおどもするよ…
暗い場所に入るのもなんだか緊張するし。
映画館って座ってる人から入ってきた人が丸見え…周りの反応が想像できる…
怖ず怖ずと黄瀬くんの後をついていった。






「え、あれ黄瀬涼太じゃない?」

「ほんとだ!カッコイイっ」

「後ろの子、彼女?」

「え、なんか普通じゃない?」






やっぱりだ、想像通りのこの反応に俯いてついていく。
前から黄瀬くんのため息が聞こえた…やっぱりやめた方がよかったかなぁ…
心の中でごめんなさいと呟くと
頭の上から“ごめんね”がふってきた…驚いて顔を上げると

黄瀬くんの腕が背中に回され肩をぐいっと抱き寄せる…

状況が把握できた頃には既に周りの声はぴたりと止んでいた。
席についたら横の席は運良く空いていて肩にあった手はもう離されていた…







「ホントは無理やりあんなことしたくなかったんスけどね」

『あ、えっと…ありがとう。ごめんね?』

「なんで希空っちが謝るんスか!オレがバレないようにしとけば良かったんス…今日何回も気使ってオレの傍から離れたりしてたし…」

『あ、ごめん…バレバレだったよね。彼女でもないし勘違いされたらダメだし…』

「…そっか、やっぱり迷惑っスよね…」

『え、違う違う!黄瀬くんに迷惑ってこと!』

「じゃあ希空っちはオレの彼女でもいいんスか?」

『あ…え…?そんな急に言われても…』






彼の真剣な表情に驚いてどうすればいいか戸惑っていると映画が始まるみたいで暗くなっていく…
タイミングがいいやら悪いやらよくわからない

どうしたらいいのか分からないでいると黄瀬くんが思い立ったように話す






「じゃあこの映画終わるまでに決めるってことで!」

『ぇ…そんなの無ッ!!』

「しーっ」





反論しようとしたら口元に人差し指を添えて遮られた…
卑怯者…っ





『ずるいっ』

「オレはもっとずるいっスよ?上映中にも勿論アピールするし覚悟したほうがいいんじゃないっスかね」

『…な…ッ!!』








上映中にご用心。





真っ暗闇で手は繋がれるは凭れられるは
心臓爆発寸前で映画なんてちゃんとみれる訳もなく…ッ


「好きっスよ?希空」






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