次の日から俺に新しい習慣が生まれた。帰りのHRが終わると同時にスカスカの鞄をつかんで自販機にダッシュする。そこで適当に飲み物を二つ買うと、息つく間もなく放送室へと階段を駆け上がり、俺が入った瞬間のみょうじの顔を見てひとしきり笑うのだ。
「また来たの」
実に嫌そうな顔でみょうじは言った。まるで秘密基地を取られた子どものようなその顔がおもしろくて、俺はニヤニヤしながら入り口側の椅子に座る。
以前はドアに背を向けて座っていたのに今では反対だ。何だかんだで俺が来るのを待っているのかと思うと悪い気はしない。
「ん、新商品出てたから買ってみた」
持っていた紙パックの一つをその前に置けば、表情が少し和らいだ。
「今日は沖田だよね」
ああ、と肯きながらパックにストローをさす。
俺たちの間にはいくつかルールが出来ていた。
一つ、俺が来る時は二人分の飲み物を買ってくること。ちなみに支払いは一日交代制だ。
二つ、みょうじが曲を作り始めたら声をかけないこと。
三つ、ドアは閉めても鍵はかけないこと(このルールは無くてもいいと思う。ここにくるのは俺たち意外には銀八だけだし、あいつは鍵を持ってる。俺みたいな奴が増えたらどうする気だ)。
「あ、コレ美味しい」
「まじでか。期間限定だってよ」
俺が買ってきたジュースを飲む間だけみょうじと話が出来る。その他は静かにしてなきゃいけないけど、それを窮屈に思ったことはない。マンガを読んだりゲームしたり、そんな普通の時間にみょうじの歌があるというのはとても心地好いものだった。
「沖田、あたし明日もコレがいい」
明日も来ていいのか、とは言わない。かわりに俺は分かったと一つ肯いた。
「んじゃ、俺も同じのにしてみるかねィ」
真似すんな
そう言って君が笑います