銀八の気だるげな声が教科書の活字をなぞる。俺は先日の席替えで獲得した窓側最後尾の位置から、何を見るでもなく校庭を眺めていた。ブルマ姿の女子に紛れて赤いジャージがちょろちょろ動く。

「んじゃーこれは何をさしているか、ヅラ」

「桂です先生」

一瞬だけ意識を授業に向けてみても、いつものくだらない会話が聞こえてくるだけだった。あーあ、この暑いのによくジャージなんか着てられんなァ。100m走でもやるらしい。二列に並んだブルマたちの前の方で、赤いジャージが黄色い旗を持っていた。ゴール側に立っていた教師の手が上がる。

「位置についてー」

みょうじだ。かすかに響いてきた声で分かった。昼休みに土方さんたちがしていた会話を思い出す。何でわかんねぇかな、こんなにいい声なのに。

「いてっ」

「女子の体育ばっか見てんじゃねーよ。次の問題当てるからな」

俺は教科書がヒットした後頭部をさすりながらクルクルの銀髪をにらんだ。ジャンプ見えてんだよクソ教師。チャイナが向けてくるニヤニヤ笑いを無視して、一定の間隔で聞こえてくる声にまた外を見る。あの旗持ってる手でさっきまでギターを弾いていたのかと思うと、何だか変な気分になった。

(そういえば)

昨日あいつは放課後なのに放送室にいたよな。もしかして今日も行くんだろうか。ギターと一緒に歌っているんだろうか。

(きっと、いる)

あいつはいる、そんな気がした。何でか知らないけど、赤いジャージを見ているとそう思えた。銀八の声が教科書の活字をなぞる。俺の頭の中では、昨日のみょうじの歌が鳴り響いていた。


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