別にばっくれることが出来ない訳じゃなかった。
ただ、こいつはどんな思いでこの手紙を書いたんだろうとか考えてみたら、行ってやった方がいいような気がした。それだけ。
多分俺は毎日浸かるあの部屋の空気に毒されているんだろう。
それを浄化というのかは分からないけど。

「手紙書いたのってあんたですかィ?」

はい、と震える声が空気を揺らした。心のどこかであいつと比較している自分に苦笑するのを堪えて用件を聞く。
残酷だと知りながら、何度も練習してきたであろうそれを一言で切り捨てるのだ。

「ずっと、沖田君のことが好きでした。私と付き合ってください」

ガタッと教室の外から音がした。女の細い肩が震える。
廊下の様子を伺った拍子に時計が目に入った。放課後に入ってから20分が経っていた。今日の飲み物当番は俺だったなと思いながら女に向き直る。

「すいやせん。俺、あんたとは付き合えねえ」

女の目が見開かれて、薄い唇が言葉を探すように震えだした。俺にとってのたった一言はどれだけ重い意味を持っているんだろう。
それ以上のことなんて言うつもりはなかった。それなのに口が勝手に動いていた。

「俺、好きな奴がいるんでさァ」


自販機に100円を入れて適当にボタンを押す。ガコン、と缶が落ちる音がした。
俺の中でも何かがストンと落ちていた。


好きで悪いか
今さっき自覚しました
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