ゴールの下に転がっていたバスケットボールを拾い上げた。
２クラス合同で行われる体育のバスケ試合はＺ組の圧勝に終わった。向こうのクラスも弱い訳ではなかったけど、こっちは猿みたいな奴ばっかりだから仕方ない（土方さんとか土方とか土方コノヤローとかだ）。
片付けは毎回交代で今日はＺ組が当番だ。
前方で志村がボールを集めていたので、ついでにこれも持って行ってもらおうと軽く投げた。…のが間違いだった。完全に気付いていない。
「志村、うしろー」
「え、むごがっ！！」
顔面にボールがヒットした志村に合掌。丁度近くにボールを持った土方さんがいたので俺は大声で言った。
「気をつけろ志村、土方さんが二発目当てようとしてるぜ！」
「ふざけんな総悟、お前が当てたんだろうが！！」
「やだなァ土方さん。人のせいにするのは良くないですぜ」
「お前が言うな！」
投げられたボールを避けながら逃げると、鬼のような形相で土方さんが追いかけて来た。やれやれという顔をしている山崎がうざくて投げたボールがこれまたヒット。いつの間にか片付けもそっちのけでドッジボール大会になってしまった。
あーあ、次の授業何だっけか。銀八だ。ならいいか。
「あ」
あちこちでボールがバウンドしてうるさいのに、その声が耳に届いたのは何でだろう。
出入り口の方に目をやると、思ったとおりみょうじが他の女子に紛れてそこに立っていた。次の授業が体育らしい。ジャージ姿に加え長い髪はポニーテールに結んであった。
「沖田さん、前っ」
どかん、お約束。クスクスと女子達の笑う声が聞こえてきた。
ふざけんな、誰だ今投げた奴。
「総悟、次のクラス来てんぞ。片付けだ」
畜生、誰が当てたか分かんなかった。
投げ返そうとしていたボールをボール入れに放る。ナイスシュート。まだあったボールを拾おうとしたら、目の前で小さな手が攫っていった。
「鼻、大丈夫？」
呆れたように笑いながらみょうじがボールを抱えた。動く度に後ろでポニーテールが揺れている。
「早く着替えないと授業遅れるよ」
「ん、サンキュ」
俺は逃げるようにしてその場を去った。
かがんだ時に見えたみょうじの白い首筋が目に焼き付いて離れない。顔が、熱い。
（うなじ、やべえ）
何してやがる
心臓に悪いです