「10月の最後だ」

ソファで仰向けになっていたなまえが唐突につぶやいた。ばさり、両手を伸ばして読んでいた雑誌がそばかすの散らばった頬に落ちている。

「だからなんだよ」

ソファを背もたれにして床に座っていたオレが頭を後ろに倒すと、ちょうどなまえの腹が枕になった。ぐえっ。なまえの口から出る声はやっぱりブサイクだ。自分でも、よくこいつを女として見たよなと不思議に思うときがある。でも、どこか甘やかすように髪を撫でにくるこいつの手つきは嫌いじゃなかったりする。

「31日だっけ、今日?」

「そうそう。トリックオアトリートだよ」

「そこの棚に入ってる菓子食っとけ」

「うっわ風情ないなー」

外国のもんに風情ってあってるのだろうか。そうとは口に出さずになまえに押し付けた後頭部をぐりぐりと動かしてみたら、頭の下の感触が固くなった。こいつ腹筋しめやがった。寝心地の悪くなった枕から身を起こせば、ふふんと自慢げな笑い声が聞こえた。つくづく憎らしいやつである。

「10月が終わるね」

「だから、なんだよ」

なまえの顔を覗き込むようにして体をむける。オレの髪を撫でれなくなって寂しげななまえの右手にオレのそれを絡めてやれば、すぐに絡め返してきた。単純な奴。

「高尾の月が、終わっちゃうね」

「……バカじゃねえの」

一瞬言葉の意味を考えて、たどり着いた結論に思わず笑ってしまった。右手に強く強く力を込めれば、痛いよと嬉しそうに笑う。お前ほんとバカだよ。10がオレの背番号だからって。


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