友人が勇者☆新たなる旅立ち | ナノ




触手LOVEパニック☆

「ここはどこだ?」
勇者はひとり森の中をさまよっていた。
うっそうとした森の中は木漏れ日はあるものの薄暗い。
ときおり遠くで鳥のさえずりは聞こえるものの静けさに包まれていた。
森にひとり立っている自分に気づいたのはついさっきだ。
どうやら勇者シリーズ4作目らしい。
三作目の終わりにカイと天国で別れてから2ヶ月ほど。
これでまたカイに会いにいけるという想いと、下界で生をまっとうしてカイのもとへ行ったほうがよかったのではないかという想いに分断される。
ゲームが始まればカイに会えはするがエンディングを迎えてしまえばそれもなくなるのだ。
行き先も敵もわからないゲームのスタート。
木々にさえぎられひつじ雲も見えない空を見上げながらカイを想い、行くあてもなく歩き続けていた。
そんなときだった。
不意にひとつの叫び声が聞こえてきたのだ。
思考よりも体が反応した。
それは、その声は、愛しいカイの声だったからだ。
森の中にカイが!?
いるはずないという考えなど浮かびもせずに、身体に心に刻みつけられているカイの声に勇者は走り出した。
「カイー!!!」
モブキャラであるカイの叫び声ということはもしかしたら敵に襲われているのかもしれない。
断続的に響いてくる叫びに勇者は必死で足を進める。
そしてしばらく走りつづけ、どんどんと声が近づいていき勇者の進んでいた道が一気に開けた。
暗い森の中でそこはまばゆく陽のひかりを浴びる湖のほとりだった。
反射する日差しに目を細めながらぐるりと見渡せばひとつの影がうつった。
「ゆ、勇者さま?!」
「カイ!!!」
やっぱりカイだったのだ、と喜びにあふれると同時に、その姿に勇者は目を見開く。
カイは木の蔓らしきものに四肢を拘束され宙に浮いていたのだ。
いままでにない感情が勇者の胸のうちから湧き上がる。
無意識に背にからった剣を手にし、カイへと向かっていく。
「おのれ!!! カイを離せー!!!」
これまでたくさんの敵とたたかってきたがいまほどの激情に飲まれたことはない。
勇者は我を忘れ剣を振りかざした。
「ダ……ダメです!!! 勇者さま!!!」
だがその剣が振り下ろされる寸前でカイの悲痛な叫びに制止させられる。
「なんでだ、カイ! お前は襲われてるんだろう?!」
「違うんです、勇者さま。この子は私の友人なんです」
「友人?! だがしかしさっき悲鳴を! それに拘束されているじゃないか」
「いえ、これは遊んでいるだけなんです、この子にとっては」
カイがいう”この子”というのは木の精霊らしい。
木に宿った精霊が蔦を使いカイに触れてきているそうだ。
そして遊んでいるうちにこうなってしまった、と。
「……本当に?」
「ええ。驚いて叫んでしまったのですが、私の友人なのです。ツリーっていいます」
カイは勇者を安心させるように微笑を浮かべる。
雲の上で会ったときに見ていたものと同じ穏やかでやさしい笑み。
それに勇者はようやくほっとした。
同時に”ツリー”とはまた安直だな、いや素直なことはいいことだ、と内心こっそり思う。
「そうか。ならいいんだ。ツリー、俺は勇者だ。よろしくな」
カイの友人ならば自分も友達だと勇者は手を差し伸べる。
と、どこからともなく蔦が伸びてきて握手するように手に絡まり、すり抜けていった。
「ツリー、そろそろ下ろしてくれるかな?」
勇者とツリーの握手を暖かく見守っていたカイが笑顔そのままで精霊に向かって話しかける。
だが拒否するように遊ぶように蔦はカイの身体をさらに持ち上げ揺らす。
「わわっ」
「大丈夫か?」
「はい」
どうやらツリーは悪戯っ子らしい。
苦笑するカイに蔦がまた一本二本と絡まってきた。
多少心配にはなったがカイが友人だというのだから大丈夫だろう。
勇者は様子を見ることにし、カイへ話しかける。
「ところでカイもこの新しいゲームに出ているんだな」
「そのようです。勇者さまからいただいたカイという名前でこの湖のそばで目が覚め、精霊さんとお喋りしていたんです」
「そうか」
「モブキャラですし、すぐに上へ行くとは思いますが」
「そんなこというな。俺はカイにここでこうして会えて嬉しい」
勇者が宙釣りになったカイのそばへ行き笑いかけるとカイは恥ずかしそうに頬を染め顔をうつむかせた。
「私も……勇者様に会えてうれし―――……っ、ん、あ!?」
「カイ?」
言葉は途中で途切れ上擦った声があがった。
「ツ、ツリーちょ、ちょっとくすぐったいよ……っわ」
どうやらカイの身体に巻きついた蔦がカイの身体をくすぐっているらしい。
「すみません、勇者様」
カイが謝る必要はないのだが、勇者を見下ろす状況になっていることやちゃんと話せないことへの謝罪らしい。
「いや、いいんだ。気にしないで。ずいぶん懐かれてるんだな」
「はい。こうして人間に出会うのはずいぶんと久しぶりらしいです……っ、ツリーっ……ちょ、そこ……はっ」
「……」
そうかそうかと頷きかけていた勇者だが戸惑いの表情を浮かべるカイにわずかに顔がこわばった。
「ダメだよ、そんなところに……ン……っ、どこ触って……っあ、ちょっと待って、ダメだよ……っ」
「……」
困ったようなカイの顔が少し赤らんでいるような気がする。
しかも漏れる声がどうにもアノ時の声に似ているような気もする。
というより―――どこを触ってるんだ?
段々と蔦に対して不信感が募ってきた。
「……本当に大丈夫なのか、カイ?」
「え? え、ええ。きっと……ン……っ、勇者様に会えて興奮してるンだと……おも……っ、あっ」
「……」
(「あ」ってだからどこを触ってるんだ!!!?)
カイの衣服の下で蔦が蠢いているのがわかる。
「カイ……。とりあえずいい加減離してもらえ」
「そ、そうですね。ツリー、離し……っ、ひゃっ」
「ひゃ……?」
「ゆ、勇者様だめです! この子は遊んでいるだけなんです!」
ついつい剣の柄をぎゅっと握り締めれば、カイにすかさず窘められた。
「そ、そうだな」
「友人なんです、だいじな……っぁ」
(本当にそうか!!?)
思わず叫びたくなるが必死でこらえる。
冷静にならねばと深呼吸ひとつしいて勇者はカイを見つめた。
「……っ、ふ……ぁ、ダメだって……そこは……ちがっ……っぁ」
「……」
カイの四肢に巻きついていた蔦。そしていくつもの蔦が身体中に絡みつき、ゆっくりと動いている。
そのたびにカイは顔を赤くして声を上げている。
(……遊んで……いる、んだよな。カイの友人を疑ってはダメだ!)
「……ほんと……そこは……ッ、んんっ……や……っ」
「……カイ?」
「……っあ、勇者さま……っ」
「……」
目が合う。
カイの目はひどく潤んで濡れていた。
上気した頬、妙に甘く漏れる声。
それは二ヶ月前最後の逢瀬のときにベッドで―――。
「……ッ、や、ダメ……ッ!? んん!!????」
ぷつんと頭のネジが弾け飛び、気づけば勇者はカイに背伸びをしてその唇に唇を触れ合わせていた。
久しぶりのキスはとてつもなく甘い。
「……んっ」
勇者はカイの味にめまいを感じながら舌を差し込むとゆっくりと咥内に舌を這わせた。
驚きに縮こまったカイの舌をやさしく絡めとる。
咥内で触れ合わせるだけで身体中を幸福感と快感が突き抜けた。
「カイ……っ」
角度を変え深さを増していく口付け。
「……っ……ふ……ぁ」
苦しいような切なそうなカイの声さえも五感をしびれさせる媚薬だ。
キスの間も蔦は動いているらしくカイの身体が揺れていた。
そして蔦に負けじと勇者もカイの身体に手を這わせた。
「……ン……、だめ……です……勇者様……っ、こんなところで……っ」
「……なにをだ? 俺とツリーとカイは遊んでいるだけだろう?」
「そ、そうですが……っあ」
甘いカイの声に再び激しく唇を奪い、本能のままに貪った。
もう理性などなく。
あとはふたりで欲の渦に落ちていくだけ―――。
「カイ……。ここもう硬……っ」
勇者の手がカイの下肢に伸び脚の間へと触れかけた瞬間。
その場に轟音と、
「こんの色ボケたわけものがー!!!!」
という怒声が響き渡った。
同時に勇者の身体が吹き飛び湖へと落ちる。
跳ね上がる水しぶき。
「ゆ、勇者様!?」
「なにものだ!?」
驚くふたりが目にしたのは。
「魔王!? なぜここに!?」
剣を片手にもった魔王だった。
第一作目で倒した魔王は地獄に落ちたもののカイと友人になり、そのあと勇者とも友人といって差し支えないくらいには仲良くなっていた。
魔王曰く、
『勇者が友人、なわけないだろ!!』
らしいが、まんざらでもないらしい。
その魔王が水に浸っている勇者に憤っている。
「なぜじゃねーだろ!!! この色ボケ勇者!! 野外プレイだと!? エンディングにはまだ早い!!!」
「「エンディング?」」
呆ける勇者とカイに魔王は腰に手を当て仁王立ちすると首を傾げた。
「なんだお前ら知らないのか。このゲームの概要」
「知らないんだ。俺もさっきこのゲーム開始に気づいたばかりで」
「私もです」
蔦は魔王登場で驚いたのか動きを止めている。拘束はそのままだが。
勇者はずぶぬれ状態で湖からあがると、どういうことだ?、と魔王に説明を促した。
すると魔王はちらりカイを見て何故か一瞬顔を赤らめると咳払いひとつして口を開く。
「このゲームは前の三作とは違うジャンルだ。BL恋愛シュミレーションだ!」
「「BL……恋愛しゅみれーしょん…?」」
「そうだ。主人公がカイでカイがこの世界を旅する間に危険にさらされ、それを助けた俺や、それか勇者と恋愛するというゲームだ。選択肢によってルートは変更されるからな。最初は俺や勇者のキャラクターを見極め、途中でだな、誰と恋をするかをえら」
「ちょっと待ったぁああ!!」
黙っていれば聞き捨てならない設定に勇者は勢いよく叫んだ。
「なんだ。まだ説明は途中だぞ」
「いやいやいやいや! そうじゃなくって! 俺とカイは恋人同士なんだ!! だから魔王と恋とかないだろう!!!」
「別に俺様はそんなもの興味ない」
「な、なら!」
「だがこういうゲームは発売されたということはニーズだろ」
「……ニーズ?」
「そうだ。真面目な勇者もいいが、悪でイケメンでツンデレ俺様魔王攻め見たい!!とかいう声が出たんだ」
「どこでだ」
「というわけで……不本意だが。しょうがないからな、カイ」
勇者のツッコミなど耳に入ってない様子で魔王はカイを見て、また一瞬顔を赤くすると近づいていく。
そして懐からボトルを取り出すと液体を蔦に向かってかける。
途端にするするとカイの身体から離れていく蔦。
すかさず落ちかけたカイの身体を勇者より先に魔王が抱きとめた。
「あのマオさん。いまのは?」
「ああ。これはこいつらが好む酒みたいなもんだ。酔って離れていったみたいな感じだな」
「そうなのですか。ありがとうございます」
「ふん」
笑顔のカイにツンと顔を背ける魔王。
魔王はカイの身体を抱きしめたままで。
「……ハイハイハイハイー!!! 離れろ!!!」
呆然としていた勇者は我に返ると慌てて二人を引き離した。
「悪いが俺はこのゲームを認めることはできない! 俺とカイは恋人だからな!!」
「あ? だからお前が認めようが認めまいがゲームは発売されたんだよ。『勇者と魔王アナタはどっち!? どっきん☆触手LOVEパニック♪』は!!」
「しょくしゅ……」
「どうやら敵は主にいまみたいな蔦や触手らしい。このゲームがR18らしいからだな。エンディングはその……アレだ」
「アレってなんだ」
「ゆ、勇者様! 剣を納めてください!」
「ふん、俺はどうでもいいがな」
「そうですよね。私となんか」
「は? べ、べ、べつに俺はお前がイヤだとかそんなことは……って、なんでもない!!」
「マオさん」
「ふん!」
「ちょっと待ってくれー! だから魔王、なんで顔を赤くしてるんだ! カイもそんなに笑顔向けたらダメだ! カイは俺の恋人なんだからな!!」
らしくなく叫ぶと勇者はカイを姫抱きにし走りだした。
「あっ!! 勇者お前!!!」
「あとは頼んだ!」
「頼んだじゃねー!!!」
愛しの恋人カイを抱きかかえ逃げる勇者と追いかける魔王。
果たしてこの愛の逃避行の行方は―――?



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「『というはじまりからの魔王によるカイ略奪愛パターンもあります。ぜひお試しを♪』」
「なにそれ。ゲームか?」
「うん。ネイトに借りたBL恋愛シュミレーションゲーム。スズもする?」
「(BLって……)いや俺はいい」
「そう? じゃあ、さっそく! ゲーム開始〜♪」

テレビ画面にカラフルでポップなゲーム画面がはじまり、守は【START】を押したのだった。


―――

勇者と魔王アナタはどっち!? 

どっきん☆触手LOVEパニック♪

―――

終わり☆