01
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なんでこんなことになってるんだろう。
俺が今いるのは俺の部屋の、俺のベッドの上。
そこで俺は仰向けになっている。
別にそれ自体はおかしいことじゃないはずだ。
自分の部屋でベッドに横になっているなんてことはごく自然なよくある光景。
だけど―――。
「……お前が悪いんだ」
俺に跨り冷たく闇を映すリュートは、イレギュラーな存在。

なんで、こんなことになった?




【ひとかけらもなく】





ネイトからの電話を切ったあとネイトの忘れていったもこもこのヘッドフォンで音楽を聴いていた。
あいつのように大音量ではないけれど、耳を覆う暖かさと好きな音楽に心が凪いでいく。
なにも考えずに頭をからっぽにして音楽だけを充満させるのも悪くないのかもしれない。
ネイトも無になりたいのかな。
ぼんやりとそんなことを考えながら窓の外を眺めていた。
満月だったらしい夜の空は暗いけれど月の光で明るく、綺麗だった。
どれくらいそうしていたんだろう。
音楽が止まり、再生ボタンを押そうとしたときなにか音が聞こえた気がした。
ヘッドフォンを外すとインターフォンが鳴っている音がしている。
守、と考えて、そういえば友人に呼ばれて出掛けていったんだと思い出した。
部屋を出て玄関に向かう。
ドアスコープ越しに外を確認してドアを開けた。
瞬間冷たい夜風が入り込んでくる。
「こんな夜中にどうした? 守なら出掛けていないぞ」
ネイトの次はリュートか、と俺は目の前に立つリュートを見て小さく笑った。
普段はこいつのことが正直苦手だけれど、いまは不思議とそうでもなかった。
俺の中で守への気持ちを整理つけたからだろうか、それとも守のこいつへの気持ちを知ることができたからか。
だけど―――俺とは反対にリュートの表情が険しいことに気づく。
「リュート?」
おい、と呼びかけた俺をリュートは一瞥もせずに動き出した。
俺の横を素通りし部屋の中へ入っていく。
「おい? 守はいないぞ」
とりあえずドアをしめながらリュートの背中に声をかける。
それも無視され、リュートが入っていったのは守じゃなくて俺の部屋。
「……なんだ?」
ようやく様子がおかしいことに気づいてそのあとを追った。
「リュート」
俺の部屋の真ん中で立ちつくすリュート。
俺と接するときはいつも仏頂面だけど、いまはそれ以上に苛立っているような雰囲気を感じる。
眉を寄せながらリュートの後ろに立つ。
そういえばさっきネイトからあった電話はいまから会わないかってことだった。
あいつと会うということはセックスに繋がる。
あいつの気まぐれかと思ったけど、もしかしてリュートとなにかあったんだろうか。
だけどそうだとして、なんでこいつが俺の部屋に来るんだ?
「おい、リュー……」
「秋野」
いつもより冷えた声が俺を呼び、リュートはゆっくり振り返った。
その―――陰鬱な眼に息を飲む。
それはあいつの怒ってるときの眼に似ていた。
けど、だがそれよりももっと―――。
「ちょっと後ろ向け」
「は……?」
「いいから向け」
困惑しながらも有無を言わせないような声音と眼差しにしかたなく背を向ける。
なんなんだろう。
戸惑っていると背後から腕を掴まれた。
「なに……?」
腕になにか巻きつけられる感触。
それが片方づつされて、何の冗談なんだろうと思ったときにはきつく締められていた。
勘違いでなければ、なにか布で俺の両腕を。
「ちょっと、おい、お前なにしてんだよ」
焦って振り返ると肩を力任せに押された。
バランスを崩した俺の身体はベッドの上に落ちていく。
大した痛みもなく仰向けに倒れ込んだ俺に―――リュートが跨った。
「……は?」
なに?
なんだ?
「……なんで」
俺が、押し倒されてる?
見慣れた天井と、俺を無表情に見下ろすリュート。
状況はまったく理解できず混乱だけが支配する。
「なんのつもりだ?」
こいつが悪ふざけをするようなタイプじゃないことはわかる。
だけどじゃあこれはなんだと考えたときに、冗談以外には受け取りたくない。
「お前、兄さんとヤってるだろ」
この態勢をどうすればいいのか必死に逡巡していると、冷え切った言葉が落ちてきて言葉を失った。

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