06


「忍くん、これお土産よかったら食べて」


お土産にと持ってきていたクッキーやチョコの詰め合わせを嘉信に用意させた皿に盛ってテーブルに置いた。
テーブルの上にはほかにもお菓子やらジュースが置いてあって忍くんが俺たちのために用意してくれていたらしい。
うさぎ目になってしまってる忍くんはティッシュで目の端を押さえながら気持ちを落ちつかせるかのように深呼吸ひとつして正座しなおす。


「……ごめんなさい。急に泣きだして」
「平気だって!」
「大丈夫?」


確かに急に泣き出したときはびっくりしたけど。
初対面の俺相手にいきなり腐男子的妄想爆発させたことが恥ずかしかったらしい。
ルームメイトの忍くんが腐男子だってことは嘉信から聞いていたし、嘉信なんていきなり妄想腐発言してくるから慣れているし平気なんだけどな。
一応嘉信で免疫できてるから安心して、とは忍くんに告げた。


「……はい。ごめんなさい」


繰り返し謝る忍くんに、「本当にもう泣かないで」って言いながらチョコをすすめた。
目が合ったから笑顔を向けると、恥ずかしそうに視線を泳がせてお礼を言いチョコを手にとる。
それを食べると甘いものが好きらしい忍くんの頬が緩んだ。

可愛いなぁ。
2歳下の弟のことをつい思い出した。
あと実家で飼ってるミミ(犬)のことも。
つい頭を撫でそうになって手を止め、クッキーを掴んだ。


「そういや忍ちん、麗しの書記様好きって言ってたな」
「……よ、嘉信くんっ」


2つ目のチョコに手を伸ばそうとしていた忍くんが慌てたように嘉信を見ている。
その様子がおかしくて吹き出しそうになるのを耐えながら安心してもらえるように笑顔を浮かべたまま忍くんへと話しかける。


「俺は大丈夫だよ。さっきも言ったように腐男子に偏見ないし、それに俺も一通り読んでるからね」
「……はぃ」


どうしてか忍くんが俺に対して敬語なのが気になるけど、そこは落ちついてから変えてもらおう。
いまはせっかく知り合ったんだし、というよりこの先いろいろとお世話になるだろうからもっと仲良くなっておきたい。


「忍くんはどのキャラが好きなの? やっぱり間宮?」


俺が話しをふると忍くんは戸惑ったように俺を見つめていたけど、少しして頬を赤くすると小さく頷いた。


「はい……間宮様です」
「かっこいいよね、間宮……さま」


一瞬悩んだけど忍くん仕様で様付けしてみる。


「確かにいーよな。クールで何事にも動じずに、俺様会長やらホスト教師やら一匹狼不良やらをマイペースに総攻めで落としていくのはかっこいい!」
「だ……だよね!? でも僕は親衛隊長や巻き込まれ同室平凡くんへの優しい間宮様も好き!」


さすが嘉信。
BLを読んではいるが萌え要素がいまいちわからない俺とは言うことが違うから忍くんの食いつきもハンパない。
一気にテンション上がったらしい忍くんはチョコを掴んだまま目を輝かせてる。


「親衛隊長編俺も好き! 親衛隊長の健気な誘い受けよかったなー」
「うんうん! でもそんな親衛隊長を優しく宥めて甘い口づけで諭す間宮様……っ」
「"隊長が俺のことを敬愛してくれてるのは知っている。でもそれと恋愛はまた違うだろ? いまは転入生のこともあって疲れているのもあるし、ゆっくり考えて、そして隊長の気持ちを聞かせてくれ" もー、俺はあそこで書記様に惚れたね!」
「ぼ、僕もっ! もう恋に決まってるよね! 間宮様って肝心なところで無自覚だったりするし。そんなこと言われて好きにならないはずがないよね! もーあのシーンはじたばたしちゃったよ」
「……」


俺から話しを振ったはいいんだけど、話しにはいりこめない。
嘉信と忍くんはマシンガントークとばかりに話しを弾ませていて、読んだことあるくらいの俺じゃ乗っかることもできなかった。

だけどこのまま蚊帳の外は寂しいし、と必死で俺も腐男子ではないなりに良かったなと思うシーンーーー……って間宮が巻き込まれ平凡っていうんだっけ?その平凡くんを助けるための策略とか、そんなところしか思い出せない。
やっぱり俺には腐男子トークは無理だな、とそっとため息をついた。



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