05


食堂が一気にざわめいた。


「なんだ? すっげぇ騒ぎだな」

飛び交う黄色い歓声に転入生の羽鳥が耳を押さえて入口のほうを見る。
俺もそれにならって視線を向け、その姿を確認して胸を抑えた。


「……生徒会書記の間宮様だよ」
「間宮?」
「そう。抱かれたいランキング2位の間宮脩二(シュウジ)様。―――"麗しの君"」

俺は羽鳥に説明しながらも視線は間宮様に釘付けだった。
ダークブラウンの髪は無造作にセットされ、少し癖がある。
黒フレームの眼鏡は間宮様の理知的な雰囲気を何割増しにもしている。
まわりの視線やざわめきなど一切気にせずに颯爽とあるく姿は―――。





「……麗しの君……間宮? って……"麗しの書記様"のことか?」
「……」
「……」
「……ひっ!!」

嘉信くんの声が聞こえてきて、数秒、ようやく僕は現実に引き戻された。
とたんに嘉信くんと間宮さま、もとい涼さんの視線が向けられてるのに気づいて変な声を出しちゃった。
ど、どうしよう、僕、いま!!?


「"麗しの書記様"って、王道転校生がやってきて書記の間宮以外の役員及び美形がどんどん転校生に落ちていくっていう王道設定。だけど徐々に裏ルートで間宮が総攻めでみんなを落としていくっていうR18の?」
「……」
「……」
「……」

な、なんで涼さんが!?
ついさっきまで頭の中で勝手に再生されちゃっていた僕の大好きなケータイBL小説"麗しの書記様"の(一部抜粋)ことを知ってるの!!!?
びっくりしすぎて凍りついてると、嘉信くんが「おーい」って僕の目の前で手を振る。


「忍ちん大丈夫か?」

心配そうに嘉信くんが首を傾げて、僕は壊れたロボットのようにぎこちなく首を縦に振った。
本当は横に振りたかったけど。


「あ……あの……ち、違うんです……。あの……っ……ただ……涼さんが……間宮様のイメージに……ぴったりだなって思って……」

恥ずかしすぎて聞きとりにくいくらい小声になっちゃう。
だって涼さんを見た瞬間、僕が一番大好きなBL小説"麗しの書記様"の主人公であられる間宮様が現実に存在していらっしゃたのかとびっくりして、もう妄想なのかな、って思ってたらいつのまにか意識は書記様の世界に行っちゃってて……。


「涼が間宮様? まールックスは少し近いかもなー」
「え、俺、総攻め?」

おかしそうに屈託なく笑う涼さんに僕の顔は真っ赤になるばっかり。


「す……すみません」

慌てて頭を下げると涼さんは大きく吹き出した。


「忍くんって本当に腐男子なんだね」
「……は……ぃ」

嘉信くんー!?
なんでばらしちゃってるの!?
いや、うん、いいんだけどいいんだけど、麗しの間宮様……じゃない初対面の涼さんに腐男子で変な子だって思われるなんて、なんか……なんか!


「ごめんなさい……」

もともと泣き虫な僕は高校二年生にもなって情けないけど目頭が熱くなるのを感じた。


「えっ!? 忍ちん!?」
「忍くん!?」

ものすごく慌てた様子で嘉信くんと涼さんが、


「なんで泣いてるの!?」
「泣かないで、忍くん」

って心配してくる。
それがまた申し訳なくって、本当に自分が馬鹿馬鹿しくて―――間宮様に申し訳なくって、なかなか涙を止めることができなかった。



***


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