ゆうくんのひとりでできるもん!


『じゃーね、優斗さん。おやすみ』

チュ、と電話越しに響いてくるリップ音。
可愛いその行動に頬が緩みながら、俺もおやすみ、と言って電話は切れた。
途端にひとりの部屋がとてつもなく静かに感じてしまう。
捺くんとは二週間近く会ってない。
別に喧嘩したとかいうわけじゃなくタイミングがあわなかっただけだ。
俺の仕事が立て込んでいてどうしても時間がとれなかった先々週、そして捺くんが先週風邪をひいてしまった。
実家住まいの高校生の捺くんのお見舞いに行けるはずもなく(行きたかったけど)、会うことなく過ぎ、そして風邪が治ったとどうじに修学旅行に突入した。
そんなわけで会えない日々が続いていた。
通話が終了してしまった携帯をじっと見下ろす。
液晶にはもうなにも表示されてないのが寂しいな、なんて思ってたらメールが届いた。
捺くんからで開けば写メと、

『早く優斗さんに会いたい! 帰ったらたくさんエッチしようね!』

そんなことが書いてあった。

「……」

本当に早く会いたい。
会えてない日イコール触れていない日になる。
二週間会ってないとか久しぶりじゃないだろうか。
たった二週間なのにとてつもなく長く感じる。

『俺も早く会いたいよ。たくさん触れたい』

同じようなことなんだけれどさすがにエッチという単語は使えなくて、そう返信した。
さっき届いた捺くんの写メは明るい屋外で撮影されたものだった。
満面の笑みを浮かべてる捺くんに見入って、ため息が出る。
捺くんの高校の修学旅行は海外だから、すごく離れてる気がするというか…。
ため息を飲みこんでベッドにもぐりこむ。
仕事も一段落ついたし、今日は早く寝よう。
そう目を閉じた途端―――またメールの着信音が響いた。
もちろん捺くんからで、

『俺も優斗さんにいっぱい触ってほしいな。欲求不満で死にそう!』

と始まり、あの体位でしたい、だとかが書いてある。

「……大丈夫なのかな」

確か和くんと同室らしいけど、こんなメール送ってて大丈夫なのかな。
かなり赤裸々に書かれた内容に、だけど捺くんらしいな、と思い笑みがこぼれて、そしてついうっかり想像してしまった。
いつもこのベッドでしている行為。

「……やばい」

もう何度も数えきれないくらい抱き合っているから想像なんて容易く、しかも生々しく思い出してしまい、腰に響いた。

「ないない」

三十間近の男が恋人のことを思って一人で……する?
ないだろう。
だけど一度頭の中に浮かんだ妄想はやすやすと去ってくれずに、寝よう寝ようと意識すればするほどにリアルさを増して俺に迫ってくる。
俺が触れると同じように触れてくる指だとか、ひとまわりも離れているのにいつだって翻弄されてしまうキスだとか。

「……っ、バカか、俺は」

下半身に集まる熱にうろたえてしまう。
ひとりで、なんてことずいぶんとしていない。
捺くんがいるからする必要もないし。
というより捺くんと出会ってからかなり触れ合う回数が多い。
だから昔なら二週間くらいなにもなくても平気だったはずなのに、いまこんなにきついのか。
もぞもぞとベッドの中で身じろいで、寝がえりを打つ。
だけどそんなことで熱が治まるはずもない。
そうだ、メールの返信をしなくちゃいけない。
でも、なんて返す? 俺も触れたい……って、俺も捺くんに―――……って、だから、もう。
落ちつけと身体に言っても聞いてくれず、新たな想像に一層熱くなってしまう。
時間がたてばきっと落ち着くんだろう。
だけど、落ち着くまでにひどく時間がかかりそうな気がする。
頭の中が捺くんで一杯の状況では諌めようとしても無理な話。
仕事のことを考えてみるけど、うまくいかず―――……。

「どうしよう」

いいの、か?
捺くんをおかずに一人で……なんてしてしまっても。
でも捺くんは俺の恋人だし、別にひとりで抜くことは緊急事態だし悪いことじゃないはずだし。
ぐだぐだとした自分に呆れながらも、身体は正直で俺の手は自らの下肢へとのびていた。
そういう目的で自分のに触れるなんて本当に久しぶりすぎて変に緊張する。
いつもなら捺くんの手が、こうしてズボンの中へと滑りこんできて……。

「……っ」

わかってはいたけれど半身の熱さと硬さに羞恥を感じながら諦めて触れた。
何度か上下に擦れば硬度が増す。
捺くんに触ってもらうほうが気持ちいいけど、自分の身体だからそれなりに……というよりか、ちゃんと気持ちいい。
でもやっぱり捺くんの手のほうが……と、目を閉じて思い出してみた。
どんなふうに触ってきてただろう。
おねだり上手だけど、意外に意地悪というか焦らすのも上手というか、悪戯に触れたりしてくるんだよな。
思い出しながら捺くんの手の動きを真似て動かして、バカみたいに熱い吐息をこぼしてしまう。
次第にぬるりと先走りが出始めてそれを全体にまとわりつかせながら半身を扱く。
いつもなら俺は捺くんのに触れて、身体を抱きしめて、なめらかな肌に唇を落して―――。

「……く……っ」

傍にない温もりに焦れる分、手の動きを加速させる。

『優斗さん』

そう囁く甘く可愛い声を耳元でよみがえらせながら、捺くんの肢体を思い浮かべる。
自分の手なんかじゃなくてゆっくりとほぐした捺くんの中に半身を沈めることができればいいのに。
できないもどかしさに一層きつく手を動かす。
次第に込み上げてくる吐精感に荒い呼吸を吐きだしながら片手じゃ足りなくてもう片手も添えて扱いた。
捺くんと触れあっているときは密着することが多い。
隙間ないくらいに抱きあって、咥内を貪って。
掠れた喘ぎも、俺を見つめる艶っぽい眼差しも、全部が堪らなく愛しい。

「……っ……ぁ」

俺しかいない部屋にシーツの擦れる音とこもった水音が響く。

「……捺くん……っ」

いない、けど、その名を呼んで、頭の中で捺くんの身体を開いて。
熱さや狭さを思い出し無意識に手と同時に腰を揺らしていた。

「……ン、っは」

やばい。
捺くんの嬌声を耳に思い出して、絶頂に達するために扱く速度を速める。
汗ばんでしなる背中。
きつく俺のを締めつける後孔。
俺は捺くんの中を抉って突き上げ、それに。

『ゆ、うと、さんっ……俺、もうっ』

切羽詰まったように捺くんが声を上げる。
俺は一緒にイこうって余裕もないくせに笑いかけて腰を動かして、そして―――熱い飛沫が飛び散ってきた一瞬後に俺も―――。

「ッ……く、っ……ぁ!」

脈打つ半身、吐き出される白濁。
溜まっていたそれは捺くんの中じゃなく、俺の手の中に放出される。
荒い呼吸のままそれを受け止めて閉じていた目を開けた。
薄暗い室内が映り、手に感じるぬめりに……ため息が出た。

「……なにしてるんだ、俺」

してる最中はいいんだけれど、こうしてひとり終えたときの虚無感はいったい何なんだろう。
スッキリはしたけど虚しいというか。
捺くんをおかずにしてしまった罪悪感もあるし。
立て続けにでるため息にまたため息を誘発させながらベッドサイドからティッシュを取って白濁を拭きとった。
ゴミ箱に投げ捨て大きなため息とともにベッドに身体を投げ出す。
もう一度ため息が出かけた。
その時、着信音が響きだした。
それは捺くん専用のもので、激しく心臓が動くのを感じた。
焦りに軽くパニックになりながら、ひとりでしていたことの後ろめたさとタイミングの良さに不安になりながら携帯に出る。

「も、もしもし?」

上擦ってしまった声を不審に思われないといいんだけど。

『優斗さん、起きてた?』

捺くんはいつも通りの様子で安堵しながら、なんとか気持ちを落ちつかせながら返事をする。

「起きてたよ。どうかした? なにか言い忘れ?」
『うーん……。あのさ、優斗さん』

歯切れ悪い捺くんに不思議に思いながら、どうしたの、と訊けば、声を潜めて話しかけてきた。

『あのね……。さっきメールしたの、見た?』
「……うん」

見たよ。見たうえにそこからひとりでしてしまったよ。なんていうことは言えないけど。

『なんかさー、あんなメールしたからか、俺すっげーシたくなって!』
「……なにを?」

聞かなくてもわかることなのに、つい訊いてしまっていた。

『えー、だからエッチ! 優斗さんとエッチしたくなっちゃった!』
「……」

明るくきっぱり言ってくる捺くんに一瞬呆気にとられ、慌てる。

「な、捺くん。和くん近くにいるんだよね?」

メールならともかくこんな発言はさすがにまずいんじゃないんだろうか。

『和? 和なら出かけたよー。一時間は戻らねーって。だからさ! シよ?』
「なにを?」
『えっち!』
「……でも、捺くんいまオーストラリアだよね?」
『そうだよー!』
「じゃあ、できな」
『だから〜電話えっち!』
「……電話……」
『喋りながらシようよー。ね!? こういうのも楽しそうじゃん! 俺、もうギンギン!! なんかちょっと興奮しちゃってさー!』

呆ける俺に気づくはずもなく捺くんは、

『優斗さんもちゃんと言葉で攻めてね!? 見えないからいっぱい言ってね!?』
「……うん」

いや―――電話エッチでもなんでも、捺くんの可愛い声が聞けるならいいんだけど。
俺ついいまさっきひとりで……なんてこと言えるはずない。

『ね、ね! 俺どうしたらいい? 服脱がせる?』
「……そ、そうだね……。じゃあ俺がしてるようにちゃんとイメージして……」

結局俺は立て続けに二回も自分の手でイクことになった。
だけど、まぁ……。

『……っ、あ、優斗さん……っ、俺、も、っん』

想像の中の捺くんじゃなくて、電話越しだけどリアルな捺くんの声はさっきひとりでシたときよりも何倍もよくて、二度目だというのに俺は夢中になってしまったのだった。



***


『ゆうとさん』
「なに?」
『帰ったらもっと激しいのシようね?』
「もちろん」



*おわり*


7月21日は「0721(おなにー)の日」ってことで\(^o^)/
やまなしおちなしいみなし\(^o^)/

 

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