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「ちーくん」
「もういいですよ」
「記念記念」

あのあと俺たちが起きたのは夕方だった。
日はとっくに傾いていて、俺が目覚めたのは妙な感触がしたから。
ぼうっと目を開けると智紀さんが目前にいて、目が合うなりキスされて。

『目覚めのキスなんてちーくんお姫様みたいだね」

なんて言われた。
正直一瞬あれ俺いまどこに!?って焦ったけど、すぐ状況思い出して―――そして俺たちは京都観光に。
といってももう夕方だったから初詣で金閣寺に来てるだけだけど。
残念ながらやっぱり雪は積もっていなかった。

「一緒に撮ってもらおうか」
「え」

勝手に写真撮る智紀さんが今度はそんなこと言いだす。
いいです、と言う暇もなく近くにいた同じ観光客らしいオジサンに智紀さんは写真を撮ってくれるようお願いしていた。

「はい、ちーくん」

並ぼう、と金閣寺をバックにして俺たちは肩を並べる。
もちろん人混みの中だし観光地だし、智紀さんは俺に変なことをするわけなく立ってるだけ。

「撮りますねー」

オジサンがそう言って、フラッシュ。
ありがとうございます、と智紀さんがデジカメ受け取って。

「よく映ってるよ」

見せてもらった写真は確かによく撮れてた。
愛想笑い浮かべてる俺と、裏なんてなさそうな人の良い爽やかな笑顔を浮かべてる智紀さん。

「よく撮れてるけど……」
「けど?」
「嘘くさい」

智紀さんの笑顔が、と続ければ智紀さんは「えー」と声を立てて笑う。

「ひどいなー、ちーくん」
「本当のことですよ」

確かに写真の中の智紀さんは智紀さんだけど―――。
俺の知ってる智紀さんは―――……って、まだ会って二回目だっていうのに何を知ってるっていうんだよ。
変な感情が沸き起こって内心失笑しながらうち消した。

「ちーくん、向こうも見よう」

手招く智紀さんに頷いて向かう。
日頃から多いだろう金閣寺も元旦ということもあってハンパなく人が多い。
人の流れに逆らわないように順路を進みながら、夕食の話をした。

「朝は質素にしてもらったけど、夕食は特別豪勢にしてもらうよう頼んだからね。たくさん食べよう」
「はぁ……」
「明日の朝も、楽しみだね。明日はどこ行こうか?」
「……あの」
「なに?」

当たり前のように明日の予定を訊いてくる智紀さんに俺は足を止めた。

「いつ帰るんですか?」

流されるままここにいるわけだけど、この人の中ではどういうプランなんだろ。
正直……ここまで来たらもうよっぽど無理難題じゃないかぎり付き合ってもいいかなとは思ってる。

「んー、3日の昼にこっち出ようかな」
「……あと二泊も」
「だってちーくん、俺の誕生日祝ってくれるんでしょ?」
「……」

コートのポケットに手を突っ込んで俺を見て屈託なく笑う智紀さん。
なんか胸のあたりがむずがゆくって視線を逸らし金閣寺を見た。

「……いいですけど。プレゼントありませんよ」
「こうして一緒にいるのがプレゼントだろ?」
「……そうですね。俺結構付き合わされてるし」

振り回されてるっていうか。

「―――……智紀さん」

楽しげに笑ってる智紀さんに、寝る前訊けなかったことを訊いてみたい衝動にかられた。

「なーに?」
「あの……」

別に、どうでもいいことなんだけど。

「……なんで。俺を誘ったんですか?」

こんな遠くまで来るようなドライブに、新しい一年のはじまりを照らす初日の出を見に、こうして初詣へと来るのが。
なんで俺だったんだろう。
さりげなく智紀さんを見つめる。
一瞬不思議そうに目をしばたたかせて、智紀さんは考えるそぶりもなくあっさりと言った。

「そんなの決まってるだろ?」

人混みの中、さすがに触れられることはない。
けど、どうしてか距離感がすごく身近に感じる。

「千裕に会いたかったから」

なんでもないことのように告げられて。

「―――……そうですか」

そっけない返事しかできない俺の手をさりげなく引く手。
顔の熱さを誤魔化すように冷たい空気の中に息を吐いて白さを眺めながら、せっかくだからと明日行きたい場所を話ながら順路をまわっていった。



そして―――

「お誕生日おめでとうございます」

俺がそう言ったのは翌日深夜から日付が変わって3日を迎えたころ、積もった雪を眺めながら入っていた風呂でだった。



【それを、誰と見るか。END】

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