02
"あの夜"から二週間の間にはクリスマスもあった。
智紀さんならきっと素敵な女性と過ごしたはずだ。
そういう女性と初詣も行けばいいんじゃないのか?
『ね、一緒に行こうよ。だめ?』
「……」
『ちーひーろ。家の住所教えて。いまから迎えに行くから』
俺の反応がないことに痺れをきらしたのか、だけどとくに声に変化はなく催促してきた。
「……いや別に迎えにきてもらわなくても出ていきま―――……え。いまから!?」
『そうそう。もう元旦だしね』
「え、でも」
『特に予定ないんだよね? それともちーくんは夜更かしできないタイプ?』
「……別にそういうんじゃないですけど」
『じゃー俺に付き合ってよ。ね、ちーくん』
「……」
予定もないし、子供じゃあるまいし早寝しなきゃいけないわけでもない。
なにをこんなに躊躇ってるんだろう。
"あの夜"のことなんて気にせずに、頷けばいい。
ただ初詣に行くだけ、なんだから。
「……初詣ですよね」
『そうだよ。俺、おみくじって大吉しか引いたことないんだよね』
「……そうですか」
『俺と一緒に行ってくれる?』
「……はい」
深く考えることなんてない。
きっとこの電話は気まぐれなもので、大した意味なんてないんだ。
逆にこうして渋ってる俺のほうがおかしい。
初詣に行って、適当に喋って、そして別れれば終わりだ。
『よかった。断れるかと思ったよ』
含み笑いで言われ、少し気まずく思う。
そして住所を教えてくれと言われ、最寄駅を教えた。
近くに来たら連絡すると電話は切れて―――。
俺はとりあえず自室に戻って着替えることにした。
まさか新年早々、あの人に会うなんて。
「……初詣に行くだけだし」
俺は男が好きなわけじゃない。
"あの夜"はあんなことになったけど、あのときが異質だっただけだ。
「……なにもない」
"今夜"はなにもあるはずがない。
そうだとしても、気が重く準備をするのが億劫でしかたなかった。
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