晄人くんへトリックオアトリート!@


「とりっくおあとりーと! おかしくれないとイタズラしちゃうぞ!」
 ドアが開いて晄人が見えたと同時に玄関に飛び込んで叫んだ。
 酔っ払ってるから妙にテンションが上がってしまっていた。車の中で晄人はどんな顔をするんだろうって期待していた結果がいま出る。
「……」
「晄人! とりっくおあとりーと! おかしくれないとイタズラしちゃうぞ!」
 晄人は珍しくぽかんとしていて、それがおかしくて笑いながらもう一度言ってみた。
「ああ、そういやハロウィンだったな」
 ようやくいつものように口角を上げる晄人に手を差し出してみる。
 なにをくれるかな、とわくわくしていたらその手を握りしめられた。
「お前、酔ってるのか?」
「うん」
「だよなぁ。そうじゃなきゃこんな……」
 どこか呆れたような眼差しを向けられる。でも酔ってる俺はそれよりもお菓子が欲しくて「とりっくおあとりーと!」と三回目となる言葉を言う。
「お菓子が欲しいのか?」
「そうだよ。今日ははろううぃんなんだから」
 立ってるのが段々辛くなってきた。眠気と必死に戦うけどふらつきそうになる。
「おい」
 というよりふらついてしまってたらしい。晄人が俺の腰に手をまわして支えてくれていた。
「ごめん」
 ぼうっとしたまま謝ると晄人がため息をついた。そして急に俺の身体が傾いて。
「っわ?!」
 気づけば俺は晄人に横抱きにされていた。
「な、なに?」
「酔っ払いに玄関で立ったまま寝られたら困るし。それに、トリックオアトリート、だろ?」
 晄人はリビングへと俺を抱えたまま歩き出しながら目を細めて薄く笑う。
「お菓子くれるの?」
「お前さ」
「なに?」
 晄人のほうが少し身長は高いけどそんなに体格は変わらないような気がするのに晄人は軽々と俺をリビングのソファへと運んで寝かせた。
 すぐそばに腰かけ、続きを待つように視線を向けると、口角を上げる。
 酔った頭の中で、なにか反応しかけて、でも思考が回らないからよくわからないまま晄人を見つめていた。
「俺がお菓子持ってると思うのか?」
「……」
 確かに――晄人がお菓子を食べている姿って想像できない。
 首を横に振って、それなら、と口を開く。
「お菓子くれないならイタズラするよ……?」
 トリックオアトリート。お菓子かイタズラか。
 だから、そうなんだけど。
 言いながら晄人がすごく楽しげに妖しく笑うのに、俺はなにか失敗したんじゃないかって気がした。
「そうだな。イタズラ、しろよ?」
 ぐっと晄人が顔を近付けてきて、囁く。
「……っ」
 イタズラって。なのだろう、という疑問と、やっぱり自分がなにか失敗もとい過ちを犯したんだってことがなんとなくわかった。

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