「ハッピーエンド」のBL小説を読む
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課長とにー。前編


「課長、課長……大丈夫ですか……?」
深夜二時をまわるころ遠ざかっていくタクシーを見送り、俺は酔いつぶれている課長に呼びかける。
だけどまったく反応なくて、酒臭い課長は目をつぶってすやすや眠っていた。
あーありえない、本当どうするんだ。
今日は送別会だった。で、二次会三次会と続き、四次会へ行こうとしたら先輩から「課長送っていけ。今日ペース速くてつぶれてるから」とタクシー代と渡された一万円札とともにご命令。
課長が酔いつぶれてる姿なんて俺は初めてで、えって感じだったけど先輩命令は絶対だ。
はい、と頷いたらあっというまに俺は課長とふたりきりになってしまった。
わけだけど―――俺は課長のご自宅がどこかさっぱり知らないのだ。
あわてて先輩に電話かけるけど電源切れてんのか繋がらない。
他四次会に行ったメンバーにかけたけどことごとく撃沈。
さすがにそのまえに帰ったひとたちに深夜遅く連絡することははばかられて……俺は仕方なく自分の家に帰ることにした。
課長を連れて。






で、冒頭に戻るわけだ。
「課長〜……」
もう俺のアパートの下だし、いまさらだけど、いいのかなぁ俺のボロアパートにつれてきて。
だけどさ、課長を道路に寝せておくわけにはいかないしなぁ。
俺より筋肉ありそうな締まった体躯をしている課長をなんとか立たせて、引きずるようにして部屋に向かう。
「お、重い……」
酔いつぶれて寝てるから歩いてくれるわけでもないから、そりゃすっげぇ重い。
一分もかからない階段をゼエハアと日ごろの運動不足よろしく呼吸荒げて、10分近くかけて部屋の前に辿りついた。
鍵差し込んで、開けてドアノブまわして。
がちゃり、と開けたところで、あーーーーーーって気づいた。
そういや、にー! あいつがいたんだった。
あいつ今日どっちだ? 猫か? 人間か?
人間だったらやっかいだな、あいつ猫耳に尻尾つきだし。
どうしようやばいやばい、と考えながら重い課長を支えるのがきつくて、まぁどうせ課長寝てるしとりあえずいいか、とリビングへ引きずっていく。
いつもならドアの開く音で飛び出てくるにーが出てこないことを考えると寝てるのかもしれない。
それならさらに問題はない。シャワーでも浴びてゆっくりどうすればいいか考えよう。
ソファまで辿りついてとりあえず課長を下そうとして、不意に俺の首にまわさせておいた課長の腕に力がこもった。
「っうわ?!」
ぼすん、とバランス崩してうつぶせにソファへと倒れこむ俺と、その上に折り重なるように倒れてくる課長。
「お、おもっ」
ジタバタと課長の下から抜けだそうとした、そのとき。
「……田中」
課長の声がした。
「は、はい! ……え? あ、目覚めました? すみません、課長実は」
「……か」
「……え?」
なんかぼそぼそと耳元で言ってくる課長。でもぼそぼそ過ぎて聞き取れない。
もしかして寝ぼけてんのかな?
「かちょー?」
「……クッキー……うまかったか?」
だけど、違ったらしい。
「……クッキー?」
オウム返しに訊き返して数秒―――先週もらったホワイトデー用らしきクッキーのことを思い出す。
多分っていうかあれのことだよな。
「は、はい! とても美味しかったです! あっというまに食べてしまいました!」
にーが、だけど。
でもまじであっという間に食い尽してたから美味しかったことは間違いないだろう。嘘は言ってない。俺は食べてないけど。
「……そうか」
ちょっとほっとしたような課長の声。
いままで聞いたことない雰囲気の声に戸惑いながら、
「いやーラッキーです! ホワイトデーの残りもらえて。課長ファンの女子に怒られそうですけど」
なんて笑ってみた。
そしたら沈黙。
ながいこと沈黙。
あれ、課長寝たのか?
そう思ったら、またぼそぼそっと声がした。
「……がう」
「え?」
「ちがう……。のこりじゃない」
「……そうなんですか? えっと、じゃあ誰かの差し入れとか?」
「……お前……」
「はい?」
「バレンタイン……俺にチョコ……くれたろ」
「……」
課長に、バレンタインに、チョコ、俺が!?
俺ゲイだけど! いまだかつてそんなこと好きになったヤツにしたことないぞ。
なんの冗談だ?
でも課長は嘘つくような人じゃないし、とぐるぐる記憶を巡らせて、そういやと思いだした。
バレンタインは残業で、小腹がすいてあまいものを食べたくなった俺はストックのブラック○ンダーを食べようとして。
で、ちょうどそのとき席を外していた課長が戻ってきて、目があったんだ。
チョコ菓子を口の中に放り込むと同時のできごと。
イヤ別にとがめられることはないんだけど、ちょっと気まずくて俺は『あの、課長も食べません?』と、ブラック○ンダーを差し出したんだ。
50円もしない、安いチョコを。
「……ブラック○ンダー?」
「……ああ」
「……」
「……」
「さすが課長ですね! どんな小さなものにでもお礼を忘れない! さすがです!」
なんて返事していいのか、バレンタインチョコじゃないですよーあははははは、と笑い飛ばす度胸なんてあるはずもなく、とりあえずヨイショしてみる。
「……」
「……」
「……別に……あれが……バレンタインチョコだとか勘違いしてない」
「……ですよねぇ」
じゃあなんで、ホワイトデー。
やっぱりあまりだったんじゃないのか? つーか……重い。この態勢なんなん。課長そろそろ退けてくれないかなぁ。
俺たちは倒れ込んだときのままの状態だ。
首筋や耳に課長のとぎれとぎれな酒気を帯びた吐息がふきかかってきてる。
「ただ」
俺力ないから筋肉痛なりそうな予感すんなー。
「ただ……違うとわかっていても……嬉しかったから、だから……ホワイトデー渡した」
「ああ、そうだったんです―――……か?」
「……」
「……」
ん?
ん?
ん?
なに、いまの課長の言葉。
まるでバレンタインに義理でもなんでもないチョコだけど俺からもらえて嬉しかった、みたいに聞こえるんですけど。
え?
「……あ、あの」
まさか、だよな?
と、そしてここにきて、俺はさらなることに気づいた。
俺と課長の身長はそう差がなくて、俺たちは折り重なってるわけで、んで俺のケツに、ちょいと硬いような感じのものが当たってる。
「……」
「……課長、失礼します!」
気合入れて一言、んでもって頑張って力入れて俺は場所をずらすようにして課長の下から這い出る。
俺の勢いに課長の身体も反転して、課長が下、俺が上っていう感じで向き合うことになって。
目が、あった。
いつも無表情に近くて他人にも自分にも厳しいって感じの課長。
そんな課長の顔が真っ赤だ。
酒、酒のせい、だよな。
でもって、すっげぇ目が潤んでて、ちょっと切なそうに俺を見つめてる。
「……」
「……」
え、何このフラグ。
俺はゲイだし、同族ってのはなんとなくわかる、んだけど。
会社でカミングアウトできるはずもないし、ゲイでオフィスラブなんていろいろ面倒事も多くなりそうだから、会社ではゲイだっていうことに関してフィルターじゃないけど、そういう目で男を見ることはなかった。
なにより課長が、なんて考えたこともなく。
なんで俺?って思うけど、だ。
会社とはまったく違う課長。イケメンな課長が不安そうに目をうるうるさせて俺を見上げてるのが――ー可愛い。
ついそっと課長の頬に手を伸ばしてみた。
びくり、と睫毛と身体を震わせる課長に、これはどう考えてもそうだよな、なんでかわからないけど課長は俺を。
「……田中……」
酒なのか、違うのか顔を真っ赤に、耳まで真っ赤にして課長が俺の名前を恥ずかしそうに呼ぶ。
むくむく、と俺の中の雄が、がおーと雄たけびを上げる。
俺は自然と、課長のほうへと顔を近づけていた。
一瞬驚いたように目を見開いた課長が、そっと目を閉じる。
俺はそれを見て、同じように目を閉じて、唇同士が触れ合―――う、

「リョータ!!!」

寸前、突然響いた幼い叫び声に勢いよく身体を起こした。
リョータ=亮太。
田中亮太っていうのが俺の名前。
そして俺の名前を呼んだのはもちろん課長ではなく、だとしたら―――?
にゃあ、と脳内に響く鳴き声と同じ声で呼ばれた名前に、俺はぽかんと大口を開けて、ソファ越しに立っていたにーを見た。

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