36 食後は。


適当にチャンネルを変えてバラエティ番組に落ちつく。
お笑い芸人とアイドルと、楽しそうな笑い声が響いてくるけどやっぱりテレビより夾だよなぁ。
テーブルに片肘ついて夾のほうに視線を戻すと食べ始めたばかりだっていうのにもう半分くらい減ってる。

「美味しい?」

肉じゃがを食べている夾に訊いてみると無言で頷いてくれた。

「明日も作ってあげよう。夾が好きな料理ってなに? 肉?」

10代なら絶対肉だよな。案の定食べながらまた無言で頷かれる。

「すき焼きとかどう?」
「高級肉買う金なんかねぇぞ」
「平気平気。安い肉でも柔らかく美味しくする俺完璧」

ぱちん、とウインクつきで言えば、心底嫌そうな顔をされた。
そんな他愛ない会話をしてるうちにもどんどん料理は減っている。

「夾、ごはんはよく噛んで食べなきゃだめだぞー」

俺のいい嫁発言はここでもスルーされ、返事のかわりに「ごちそうさま」と夾は手を合わせた。
空になった食器を台所に持っていき、すぐに洗いだす音がする。

「俺洗うよ」
「いい」

短い返事だけで、バイトでもしてるからか手際よく皿を洗い終えてこっちに戻ってきた。

「夾はいい夫だな」
「お前マジでうざいな」
「そこはさ、智紀の料理はうまかった、いい嫁だな、って返すところじゃない?」

笑いかければ、夾はベッドに放り投げていた煙草とライターをとり「バカか」と言いながら火をつけて。

「まぁ―――飯はうまかった。サンキュ」

そう口角を上げた。
このときの俺の気持ちを何と言えばいいのか。
いやこの瞬間沸き上がった気持ちをどうすればいいのか。

「……っ、てめ、いま煙草吸いはじめたばっかりだろーが」

夾から煙草を取りあげて床に押し倒した俺を夾が睨みつける。

「煽った夾が悪い」
「あぁ?」

煙草を吸って灰皿に置き、悪態つく夾の口を塞ぐ。
その咥内に煙を吐き出しそのまま舌を差し込むと舌を噛まれた。
ちょっと痛かったけどすぐに絡みついてきた舌に舌を擦りつけ夾のシャツの中へと手を滑り込ませる。
すぐとなりにベッドがあるっていうのに、小さなテーブルとの狭い隙間で互いの身体をまさぐった。

「……電気消した方がいい?」

一応訊いてみたら、

「どうでもいい。めんどくせえ」

って男前なお言葉。
電気もテレビもついたままでも気にならない、耳障りでもない、俺だってそんなものどうでもいい。
一気に欲に火がついて夾の素肌に手を滑らせ胸の突起を弄ればキスに吐息が混ざる。
俺の首筋に回ってきた手に、一層キスを深くしていった。

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