18 嫉妬


明日を定期テストに控え、昼休みに弁当を食い終わった俺は参考書を眺めていた。
俺が勉強道具を取りだしたとき、すでに休憩所にいた夾が意外そうに見てきた。
別に万能ってわけじゃないんだから俺だってテスト勉強くらいしますよ。
そんな俺と違って夾はいつも通り煙草をふかしてる。
勉強しないの、なんて野暮なことは言わない。
それに―――夾が一年の一番最初のテストのときに学年で10位以内に入ってるのを知ってるし。そのあとはどういうわけか30位以内まで貼りだされる順位にその名を見ることはなかったけど、多分まぐれではないだろう。
テストに出そうな箇所を見ていっていると静かな部屋の中にバイブ音が響いた。
顔を上げれば夾が携帯を取り出し画面を眺め耳に当てる。
そして「ああ」と喋り出した。
ちょっと、口が尖るってか、拗ねたい気分。
誰からの電話かを確認したときにほんの少し緩んだ夾の口元。
別にいいんですけどー俺はまだ夾くんの笑顔向けられたことないしー。

「わかった。裏門に停めてろ」

親しげな口調で終わらせ携帯がポケットに突っ込まれる。
停めてろっていう言葉にバイクなんだろうってことを察した。以前コンビニで見かけた夾と一緒にいた他校の男のことが思い浮かぶ。

「藤代は、テスト勉強した?」

野暮なことは言わない。と数分前までは思っていた野暮なことを訊いてみる。
ちらりと向けられる視線。だけど予想通り返事はなくて夾はデスクから離れドアへと向かう。

「―――するわけないだろ」

ドアが開いて、予想外の返事があって、ドアの閉まる音が響いた。
夾が去って静けさが一層増してしまった部屋の中。
とりあえず、盛大なため息をついてソファに寝転がった。
参考書を放り出して携帯を取り出す。
小学校時代からの親友でバイク好きのコウの名前を表示させた。
メールの作成画面にして、結局消す。
今日遊びに行くってメールしようかとしたけどすぐにそういや向こうもテスト期間に入ったくらいのころだと気づいた。
俺とアキ―――とは別の高校に通うコウはバイクに関する本やらなにやらたくさん持ってるから見せてもらおうかなと思ったけどやめておこう。
別に夾がバイク好きってわけじゃないかもしれないし。
それにコウはいま恋愛方面で絶賛悩んでるところだったなぁと思いいたったからだ。
片思い中のコウ。そしてそれが叶いそうにないってことを知ってる。
と、俺の携帯が何度か振動した。メールだろうと見れば奏くんから。
これまた叶わない恋だね、なんてひどいことを考えながら―――テストが終わる金曜にと、待ち合わせ場所を指定する返事をした。
コウにはテスト終わったら連絡とって、きっと相談はしてこないだろうから気晴らしに遊び行くか。
遊ぶ予定を脳内で立てながらそのあと勉強することもなく予鈴が鳴るまで目を閉じた。


***


「先輩!」

俺を見つけた奏くんは緊張を少し和らげて俺に駆け寄る。

「ひさしぶり」
「はい、会いたかったです」

素直に上目遣いで言ってくる奏くんに内心苦笑しつつ、こっちだよ、と招き寄せる。
三日間あったテストもあっというまに終わった金曜の今日。もうほとんどの生徒が下校しただろう校舎へと奏くんは足を踏み入れた。
他校の制服を着た奏くんが文化祭でもなんでもないのにここにいる姿はすごく浮いている。
本人もそれをよくわかってて不安そうにしながらきょろきょろとあたりを伺っていた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。もし先生に見つかっても俺がちゃんとフォローするから」

ね、と笑いかけると嬉しそうに顔をほころばせる。
そんな可愛い奏くんとテストのことやらなにやら話しながら校舎内を案内しつつ目的地へと向かう。
奏くんも今日がテスト最終日で、こうしてここへ来ている。
本来なら4時間目が始まるくらいの時間だ。
テストが終わった学校に用があるやつなんているはずもなくて、いつもの放課後よりも静かだ。

「ここ。はい、どうぞ」

奏くんの家でもなく学校で会うことにしたのは単純な好奇心。
学校でヤるなんて学生時代しかないだろうし。
なんていう若気の至り〜ってやつをたまにしてみたくなる若気の至りで。
俺は鍵を開け狭い部屋へと奏くんを促した。
中へと続いて足を踏み入れ鍵を締め、三日ぶりに訪れた"休憩所"のソファに腰を下ろす。

「ここって準備室とかなんですか?」
「秘密の部屋、かな」

俺の言葉にきょとんとする奏くんに手を伸ばし―――しみついてるのか微かに香る煙草の匂いを感じながらキスをした。
きっとこんなことしてると知ったら夾はいやな顔をするだろうな、とわかっていながら。

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