＊本編時系列無視：晄人やその他と面識ある設定です＊



「似合わねぇ……」

鏡に映る自分の姿に深々としたため息が出た。
今日はハロウィンということもあって、いま俺はおばけの仮装をしてた。
白に黒の継ぎ目のある衣装。フードをかぶって裾は足元まで。
お面をかぶれば誰かもわからないだろう。

「ちーくん、用意できた？」
「……はあ」

この衣装を用意してくれたのは智紀さん。
部屋に入ってきた智紀さんも仮装している。
白衣にメガネ、聴診器。明らかに―――怪しい医者だ。

「可愛い！ ちーくん！」
「……そうですか？　……智紀さんはコスプレしてるエセ医者みたいですね」
「なにそれ、そのまんまじゃない。えーエリート医師じゃなくて？」

拗ねたように言うけれど爽やかな笑顔を浮かべ眼鏡の端を持ち上げてウィンクしてくる。
そういところが逆に胡散臭いんですって。
だけどそこでツッコミいれたらまたさらに絡まれそうだからスルーしておく。

「ところで俺の衣装おばけのお面とかないんですか？」
「あるけどつけなくていいよ」
「つけないと中途半端じゃないですか？　顔見えてたらお化けって感じしないし」
「だってつけたら可愛いちーくんの顔が見れなくて寂しいじゃない」
「……」

にこにこ笑ってる智紀さんに俺はため息をつくことしかできない。

「さ。行こう。みんなもう集まってるよ」
「……はい」

今日は智紀さんとその親友である松原さんが友人を呼んでハロウィンパーティを開いていて俺もそれに呼ばれてた。
ホテルの一室（それもスイート）をハロウィンで飾りつけしてパーティ。
飾りつけは松原さんの恋人である実優ちゃんや捺くんたちがしてくれていた。

「トリックオアトリート！」

みんなが楽しそうに言い合っている。
海賊らしいコスプレをした松原さんがお菓子を配っていて、だけどもらったのに捺くんたちは悪戯をしかけたりして怒られてる。
子供に戻ったみたいな気持ちになって俺も楽しんだ。
智紀さんもキャンディーをあげたりしてて、

「トリックオアトリート」

俺が手を差し出すと、

「はい、どーぞ」

と渡しかけて手を引っ込める。

「あの、くれないんですか」
「あげずにちーくんに悪戯されるのもいいかなーと思ってさ」
「……いいからください」
「はいはい」

笑いながら俺の両手いっぱいになるくらいキャンディやお菓子を乗せてくれた。

「ちーくん、trick or treat！」

そして今度は智紀さんが手を差し出してくる。

「あ、はい。ちょっと待って下さいね」

まずもらったお菓子を置いて―――。

「俺いらない」
「は？」
「だから悪戯させて」

は？
と顔を上げたら一瞬智紀さんとの距離がゼロになった。
唇をかすめた温もり。

「ちょ、ちょっ、なにしてっ」

まわりにはみんないるのに、このひと何考えてんだ？！

「へーき平気だって。みんなほら食べるのに忙しそうだから」
「はぁ！？」

確かにみんな盛りあがってるけど、だけど人前でキスとか無いだろ！

「ダメです！！」
「えー。でも優斗たちもイチャイチャしてるのに」
「……」

智紀さんが視線を流してつられて俺もそっちを見る。
視線の先には確かに優斗さんが捺くんと―――イチャイチャしてる。

「……」
「だから俺たちもイチャイチャしようよ」
「いや、無理ですっ。絶対、無理！」
「えー」
「これあげるから、食べておいてください」
「これっていま俺があげたやつなんだけど」
「いいから！」

無理無理！と俺はついさっきもらったばっかりのお菓子の中からロリポップキャンディーを開けて智紀さんの口に突っ込んだ。

「ちぇー。ちーくんのケチ」
「ケチとかいう問題じゃないし」

拗ねた眼差しを向けてくる智紀さんはわざとらしいため息をついてキャンディを舐めだす。
……なんつーか……この人ってほんっと。
ロリポップキャンディをなんでエロく舐めてるんだよ。
明らかに俺へ見せつけるようにキャンディを舐めてる智紀さんに呆れる。

「……セクハラエロ医師って感じですね……」

ぼそっと呟いたら、智紀さんは吹きだして舐めかけのキャンディを俺の口に突っ込んできた。
口に広がる甘い味。
棒を持った手が俺の咥内を掻きまわすように動く。

「……ちょっ…」
「千裕。あとで、ね？」
「……っ」

ウィンクを寄越す目が心臓に悪いくらい艶っぽくて慌てて視線を逸らした。
楽しげに笑う智紀さんはようやく悪い悪戯を諦めてくれたようで、俺と一緒にみんなの輪の中に入っていった。
たくさん喋って食べてお酒を飲んで―――そして―――……。


＊＊＊


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