灰色の糸 3


から揚げ弁当を買って家に帰り着くとリビングのソファには達哉がいて問題集を解いているようだった。
いつもならお袋に早く寝なさいって言われて自分の部屋にいる時間だ。
「ただいま」
親父が言って俺も同じように続くと達哉が顔を上げて「おかえり」と返してくれる。
いつもと変わらない様子に妙にホッとした。
「兄貴、買っておいた」
親父はキッチンへ入っていって冷蔵庫から飲み物を取り出している。
ソファの背もたれから身を乗り出して達哉がダイニングテーブルを指さした。
弁当の入ったビニール袋をテーブルに乗せながらぽつんと置かれていた赤いパッケージのからあげくんを見つめる。
「……サンキュ」
昼にそうめんを食べてから揚げを食い損ねたってことを思い出す。
まるで遠い昔のことのように感じて、でも冷えてしまったからあげくんを手にすると"帰って"きたんだって実感がわいた。
同時に空腹も感じてさっそく弁当を食いはじめる。
親父はビール片手に俺の斜め向かいに座ってテレビを眺めてた。
うるさくないどちらかといったら小さめの音量と、達哉が勉強している微かな物音と、俺が弁当を食う音。どれも静かで、静かすぎて、いつもと同じようで違う空気。
だけど、変わらないものもあって、きっとそれは見知らぬ"親戚"じゃなくて親父と達哉がいるってそれだけのことなのかもしれないけど。
「もう寝る」
弁当を食べ終えてからあげくんを食べていたら達哉が問題集を持ってソファから立ち上がった。
「おやすみ」
達哉の染めたことがない真っ黒な短髪。まだ幼さが残る目元はお袋に似てて、全体的な印象は親父に似てる。
目があった達哉は何か言いかけて口を閉じて、おやすみ、と自分の部屋へ戻っていく。
達哉の目には俺はどういう風に見えるんだろう。
あまりお袋に似てない俺は、誰に見えるんだろう。


***


「っ、あ、んっ、く」
ラブホテルのベッドの固いスプリングを軋む音にあわせて俺の身体も揺れる。
啓介さんとのセックスはまだ始まったばっかりだけど、今日別れたばっかりのバカなんかより数倍良かった。
浅く抜き差しされたと思ったら悪戯に奥深く突き刺されて背中がのけ反る。
前立腺も狙われて、でもそうじゃなくても擦りあげられるだけで全身がどうしようもなく震えてしまうくらいに気持ちがいい。
身体の相性っていうのなら間違いなくあっているんじゃないか。
多分いままでの誰よりも、ってくらいに。
啓介さんの腰に脚を巻きつけて、俺は自分の半身を夢中で擦りあげた。
嬌声と荒い息。腰を打ちつけてくる啓介さんは俺の痴態を熱のこもった眼で見つめてくる。
真面目な男の色欲に濡れた眼差しが興奮を煽る。
啓介、と喘ぎ混じりに呼ぶと、俺を見る目が一層強く光った。
のしかかってくる重み。頬に触れてくる熱い指先。

―――陽。

掠れた声が俺の名を愛おしそうに呼んで、唇が触れ合う。
絡まる舌と肢体。
気持ちよくて気持ちよすぎて、もっと、と際限なく欲が沸き上がった。

なんで。
こんなに気持ちいいんだろう。

啓介、とまた俺は男の名を呼んで深いキスを、男の欲棒を味わった。


***

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