8 いまという名の過去D


どうしたんだろう。
「啓介さん?」
不思議に思って声をかけると啓介さんは我に返って視線を揺らす。
「……18歳だっけ……?」
「そうですよ。今年19。いま大学一年生。それは嘘じゃないですよ?」
「……誕生日っていつ……?」
「え? 10月17日です」
「……」
呆然としている啓介さんに困惑する。
なんだ?
「……どうかしました? やっぱり俺が嘘ついてたのが」
身体はじりじりと疼いて止まってしまってる刺激を欲してる。
でも啓介さんが俺に呆れてもういいって言ってしまえば終わりだ。
けど―――初対面だけど俺はもっと触れてほしかった。
「……啓介さん」
手を伸ばしいまだに固まってる啓介さんの首に手を回す。
そして俺からキスした。
びくり、と啓介さんが身体を震わせるのに気付きながらも舌を差し込む。
縮こまっていた舌に触れて、絡めて。
反応がなかったけどひたすら動かしていたら不意に啓介さんの舌も動き出した。
角度を変えて深くなっていくキス。
互いの唾液がまざりあう、最初にしたキスよりももっと濃いキス。
食われてしまうんじゃないかというくらい激しくて息があがる。
それでも熱に浮かされたようにキスを続け、半身を擦るつけるようにして啓介さんに抱きついた。
互いの身体が隙間なく密着して啓介さんのものが萎えていないことに安堵する。
「―――……陽」
その声が妙に切なく、けど愛おしそうな響きがあって快感に支配された頭の端で疑問に思ったのは一瞬だった。
「俺の名前……知ってる?」
「啓介さんでしょう? もしかして啓介さんも偽名?」
「……いや。本名だよ。……俺のこと呼び捨てでいいから」
「え、でも」
さすがに倍近く年上のひとを―――と戸惑ったけど啓介さんが泣き笑いみたいな顔していて俺は手を伸ばして頬に触れた。
「……わかった。啓介」
その手をとって啓介さんが唇を押し当てる。
伏せた睫毛が微かに震えた気がした。
「啓介……もう一回、キス」
しよう、と誘って返事を待つまでもなく唇を塞がれた。

***

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