ごめん、と繰り返す秋志に春はなにを言えばいいのかわからなかった。

「……なんで」

ようやく出た言葉はそんなことだけ。
春の目に映る秋志はいつもよりも弱々しく見えた。
俯いているから表情は見えない。

「お前んちとコイツの"両親"と、路頭に迷わせるかわりにお前とヤらせろって言ったんだよ、俺が」

お前んちの会社を潰すのなんて簡単なんだよ、とトキオがせせら笑う。

「で、コイツがお前と天秤にかけて、俺にお前を差し出したってわけ? わかったか、春チャン」
「……っ」
「ごめん。……許さなくていい」

息を飲む春に俯いたまま秋志が言う。
その声は震えていてよく見れば握りしめられた拳も震えていた。

「会長の言うことは全部本当だ。俺はお前を売ったんだ……」

胸が苦しい。
自分の知らないところでそんなことが起こっていたなんて信じられなかった。
でも、だけど。

「秋志……くん……」
「ごめん」
「それはっ……! 謝らないでいいっ」

苦しいし今の状況は信じられない。
だだ元凶は秋志なんかじゃない。
それにそうだと知っていれば、最初から秋志へじゃなくもしもトキオから言われていたら、きっと自分から身体を差し出した。
なぜ自分なのか、もしかしたらそうすることで秋志への嫌がらせなのだろうか。
そう気づけばすべて納得もいく。

「秋志くんが、悪いんじゃないっ」

悪いのはトキオだ。
だから。

「俺は……っ……平気だから……っ」

ひと時だけ面白味もないだろう身体を提供することで誰かが救われるのならそれでいい。
秋志にはこれ以上もう辛い思いをしてほしくない。

「……春。俺を許してくれるのか?」
「許すとか……そんなのないよ……っ」

杭はまだ打たれたまま。
二人のやりとりを嘲笑っているのかトキオに動きはなく、春は秋志を見上げ目を潤ませた。

「俺はどんなことあっても秋志くんのこが大好きだよ?」

その想いは変わらない。
どんなことをされても。

「春っ」

声を大きく震わせ自分の肩を抱きしめるようにして秋志がうなだれる。
秋志くん、泣かないで。
ぎゅうと締め付けられる胸を押さえながら、ベッド脇に立つ秋志へと手を伸ばした。

「――でも」

触れそうで届かない距離にもどかしさを感じていると秋志が小さく呟く。

「でも」

春は、でもなんかない、と秋志に言ってやりたかった。
本当に俺は大丈夫だと、言って。

「俺は」

秋志を守りたい、と思っ――。



「お前を許せそうにない」

春の思考が分断された。

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