私立香林学園。
山里離れた奥地にある全寮制の男子校だ。
中等部と高等部からなる学園は思春期の少年たちが集っていることもあって外出もままならない学園内では同性愛も普通のこととまかり通っている。

「トキオさんだ」
「かっこいー」
「オーラがすごいよね。さすが生徒会長って感じだよ」
「ああ、ほら副会長もいる」
「なんか可哀想だね」
「そう? 俺は会長の方が好きだなー」

教室の内外でざわつく生徒たち。
いずれも視線は廊下を歩くふたりの生徒に向けられている。
堂々とした足取りで先を行く白金の髪をした二年の相川秋生(アイカワトキオ)。
この学園の高等部生徒会長。
そしてその二歩後ろを歩くのは同じく二年で生徒会副会長の早瀬秋志(ハヤセシュウジ)。
二人の顔は瓜二つ。一卵性双生児だからそれも当然ともいえる。
だが雰囲気はまるで違う。
トキオが動とすれば秋志は静。
髪の色が違うということもあるが、同じだとしても見分けがつくくらいに二人の雰囲気は別物だった。
生徒たちの注目を浴びても当のふたりは気にすることなく進んでいく。
放課後の廊下を行く二人の行き先は生徒会室だった。
偶然鉢合わせ会話などなにもないままに秋志たちは生徒会室へと到着した。
室内へと入るとすぐにそれぞれの席へとつく。
秋志がすぐにパソコンを立ち上げ仕事をはじめるのに対し、トキオと言えば執務机の上に足を乗せ雑誌を読みだす。
会話は一切なくしばらくの間は秋志のキーを打つ音とトキオのページをめくる音だけが静かな室内に響いていた。
ややして大きく椅子を引く音がしたかと思うと足音が秋志の元へとやってくる。
いまだにキーを慣れた手つきで打っている秋志の手元にいきなり雑誌が投げつけられた。
成人向け雑誌が音を立てて落ち、卑猥な格好をさらす女性の写真が映っているページが開く。
秋志は一瞥しすぐにパソコンに視線を戻す。

「おい」

トキオは秋志の机の上に乗りあげると秋志を足蹴にした。

「舐めろ」

不遜な声が響く。
秋志はエンターキーを押すと無表情にトキオを見上げた。

「なにを」
「ここだよ」

ニヤリ、と笑いながらトキオが自分の股の部分を指さした。

「その雑誌にフェラ特集があるから、真似してしてみろ」
「……急ぎの仕事があるので」

少しの間があったものの秋志は表情を変えることなく告げると席を立った。
そのままプリンターのある棚へと向かいプリントアウトされた用紙をとると席へと戻り手際よく他の書類とまとめクリップで止める。
その一連を眺めながらトキオは再び秋志に言った。

「舐めろ」
「これから職員室に行かなくてはなりませんので」
「俺の言うことが聞けないのか?」

口角を上げたまま見上げてくるトキオに秋志も再び同じことを返した。

「急ぎの仕事ですので。失礼します」

同い年にかかわらずトキオに向かって一礼すると秋志はパソコンを閉じ生徒会室を出ていこうとした。
ドアノブに手をまわしたところで「なぁ」とトキオの声がかかる。
肩越しに振り返れば空気を切る音とともに雑誌が飛んできてドアにぶつかり落ちた。

「"御父上"に"御母上"は元気か?」

嘲るような笑みを浮かべたトキオを秋志はじっと見つめゆっくりと口を開く。
だが言葉を発する前にドアが開いた。

「うわっ、びっくりした! 副会長こんちわー」
「お疲れ……。会長もいる」

現れたのは書記と会計だ。同学年のふたりは秋志だけでなくトキオの姿も認め気まずそうに視線を泳がせる。

「ヒロ、雑誌持ってこい」
「雑誌?」
「副会長の足元に落ちてるやつだ」

トキオが書記に向かって言い、ああ、と書記が頷く。
書記と会計が室内へと入るのと入れ替わりに秋志は部屋を後にした。
閉まったドアの向こうではトキオの笑い声と他二人がなにか喋っている声が微かにする。
書記と会計は一年のころから秋志と同じ生徒会役員だった。
いまでも仲がいいが、同じくらい途中から加わったトキオとも仲良くしている。
ただ秋志とトキオが揃っている生徒会室では沈黙が落ちることが多いが。
秋志は表情のないままドアを見つめ、そして歩き出した。


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