夢の途中 4
自然と視線を向けたら―――。
「あれ? 着替えなかったの?」
濡れたスーツ姿のままの智紀さんが入ってくる。
「……あぁ」
返された声も浮かんだ笑みも、覇気がなくて、らしくない。
「風邪ひくかもしれないし、着替えたほうが……」
4月にはいってだいぶ暖かくなってきたとは言ってもずぶ濡れの状態でいたらまずいだろう。
強制的にバスルームに連れてくか、と智紀さんへと近寄った。
「ほら、行こう?」
「……」
「……智紀さん?」
やっぱ、変、すぎる。
誰だって悩むときとか落ち込むときはあるかもしれねーけど、でも智紀さんはそういう面を絶対に見せないひとだ。
甘え上手っぽいけど、そういうところは頑固っぽいっていうか。
「なんか……あった?」
だから、こういう状態を見ると俺のほうが不安になってくる。
「智紀さ―――……」
差し伸ばした手が、途中で止められて、目が合った。
なんだ?
なんか。
頭ん中で、警報が―――。
なんの、って思うのは一瞬、そして視界が揺れたのは一瞬後だった。
「……ッ、な」
勢いよく腕を引かれたかと思ったら壁に押し付けられた。
驚いて智紀さんを見たら、
「―――……捺くん、慰めてよ」
そんな声が響いて、口が塞がれた。
「……っ!?」
なにが起きたのかわからなかった。
唖然とした俺の咥内に智紀さんの舌が入り込んできて、認識するより先に身体が動く。
「やめろよッ」
パニックになってしまって智紀さん相手にそう叫んで押しのけてた。
智紀さんはバランスを崩して床に尻もちつく。
「あ、ごめんっ」
とっさに謝る。
けど、どうすればいいのかわからない。
なんで、いまキスされた?
「あの、智紀さん」
キスするなんて悪ふざけにもほどがある。
そう思った部分はあるけど、そうじゃないと思う部分もある。
いやそれはそんな意味不明なことをするくらいなにかあったのかなってことで。
「まじで、なんかあったの?」
智紀さんは俯いてて、顔を上げない。
だけど傍に屈むのを躊躇っちまう。
だけど放ってはおけないし、いつまでもうずくまったままの智紀さんに俺は意を決して傍に膝をついた。
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