夢の途中 3


インターフォンが鳴ったのは優斗さんが出張に行った翌日、金曜の夜だった。
それももうすぐ日付が変わろうとしてる時間で、誰かとモニター見れば智紀さん。
遅くにごめん、いい?、って聞こえてきて、どうしたんだろうと思いながらオートロックを解除した。
モニター越しだったからよくわかんねーけど、なんか智紀さんの声がいつもと違うような気がしたけど玄関に向かって。
すぐに智紀さんはやってきた。

「ごめんね、急にこんな夜中に」
「いやいいけど、っていうか濡れてる? 雨?」

ずっと熱中してゲームしてて気付かなかったけど雨が降ってたらしい。
智紀さんは傘をもってなくって髪も上等そうなスーツもずぶぬれ状態。

「タオルと着替え持ってくる!」

慌ててバスルーム行って、タオル取って、あとは俺のスエット上下持って智紀さんに持ってった。

「ごめんね、ありがとう」
「いいよ、気にしないで。風呂入る?」
「いいよ」
「バスルームで着替えてきて」
「うん」

小さく笑って、ごめんね、と繰り返す智紀さんに笑い返したけど―――違和感。
濡れた髪や身体を拭く智紀さんはなんか……なんだろう……。

「優斗は?」
「え? あ、ああ、出張でいないんだ。明日には帰って来るんだけど。着替えてる間にコーヒー淹れておくね」
「ありがとう。……優斗いないのか」

落胆を含ませた声に、優斗さんに用があったのかなって思いながらキッチンに向かう。
それにしても連絡もなしに来るなんて珍しいな。
なにかあったのかな?
なんか今日は―――……そう、だ、笑顔がないし。

ちらり振り返って智紀さんを見る。
全身を拭いている智紀さんはいつもと違って無表情だ。
いつだって笑顔ってイメージだからなんかすっげぇ違和感あるし、心配になる。
ずぶ濡れになるような人じゃねーし……。
やっぱなんかあったのかな。
優斗さんに電話したほうがいいんだろうか。
いつもの智紀さんを思い出せば出すほど、いまの智紀さんの状態が普通じゃない気がしてきた。
キッチン入って、とりあえず落ちつこうとコーヒーの準備をする。

俺だってもう二十歳過ぎたし、優斗さんには負けるけど智紀さんの話聞いてあげるくらいできるはずだ。
ずっと智紀さんの会社でバイトだってしてたし、俺なりに智紀さんのことは理解してる。
爽やかで軽い調子で冗談言ったりしてるけど根はすっげぇ真面目だし、すっげぇ優しい。
それに、強い人だって思う。
それは一緒に働いて実感したことだった。
だからやっぱり、おかしい。
仕事でなんかあったのかな?
でもそれだったら松原のところに行く?
じゃあ恋人となんかあったとか?
んー、あー、変に緊張してきたな。
いや、もしかしたら単に雨宿りでうちに来ただけかもしれねーし……。
たぶん違うけど―――。

そんなことをごちゃごちゃ考えてたらリビングのドアが開く音がした。

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