お兄ちゃん、危機一髪


「おにーちゃん!」
そう呼ぶのはは久しぶりに会う8つ年下の弟・朔兎。
満面の笑顔で俺に駆け寄ってくる。
俺はどうしようもなく顔が引きつるのを感じた。
名前に兎なんかはいってやがる弟はめちゃくちゃカワイイ。
女と間違われるのがしょっちゅうなほどだ。
母親似の弟と、父親似の俺。
「会いたかった!!」
朔兎は他人から見たら"愛くるしい"だろう笑顔で俺に抱きついて俺を見上げる。
「おい、こら! 抱きつくなー!!」
抱きつかれた途端にぞわぞわと鳥肌が立って、どうにか引き剥がそうとするが、意外に力が強く離れない。
「なんで? ぼくとあえて嬉しくないの?」
うるっと目を潤ませて上目遣い。
――――ぶつぶつ、とさらに鳥肌が立つ。
「嬉しくねーよ! この変態やろー!」
「変態? なんで、ぼくが?」
きょとんとして弟は首を傾げる。
「そうだよッ」
こいつに近づくと鳥肌が絶対立つ。
こいつとだけは相いれない。
8つも離れてるのに、どうやってもこいつとは無理だと感じて俺は高校卒業後逃げるようにして一人暮らしを始めたのだ。
「なんで……?」
一層目を潤ませて、いまにも涙をこぼしそうにして俺に抱きつく手に力を込めてくる。
「なんでだと? んじゃー、お前いま考えてること言ってみろ!!!」
叫ぶと朔兎は目をしばたたかせて―――微笑んだ。
「いまぼくが考えてたのは―――。嫌い嫌いっていってるけど本当はぼくのことが大好きなお兄ちゃん。本当はいますぐにでもトイレでもどこでもいいからふたりっきりになれるところにぼくを連れ込んで。ネクタイでぼくのことを縛りあげて、ぼくの身体をすみずみまで舐めつくして、そしてぼくの後孔におにいちゃんの太くて硬いものを突っ込んでガツンガツン腰を打ちつけて白濁をぼくのお腹いっぱいになるくらいにそそぎ込みたい―――んだろうな、かなぁ?」
「………」
「ぼく……お兄ちゃんがどうしても、っていうならイイよ?」
「………」
「おにーちゃん?」
呆然と立ち尽くす俺に不思議そうな顔をした弟が―――ほんの一瞬黒い笑みを浮かべ―――目を閉じて俺に顔を近づけてきた。
「う、うわあああ! よるな変態! ホモ!!!! へんたいへんたいへんたーい!!!!」
あと一歩遅かったらキスしてたっていう危機一髪のことろで俺は弟を突き飛ばした。
「いったーい……。ひどいよ、お兄ちゃん」
やっぱり目を潤ませて俺を見上げる朔兎は対外的にはカワイイ。
が、俺にとっては―――

ド変態のド腹黒のガチホモ腐男子―――!!!

女の子大好きな俺には一生関わってほしくないイキモノだった。




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