お兄ちゃん、危機一髪B


「おにいちゃん、今日は土用丑の日だね」

にっこりと朔兎が俺に微笑みかける。
一見女と間違われるくらいに可愛い8歳下の弟。
その弟の視線に怖気を感じながら俺は特上のうな重に箸を伸ばした。
今日は朔兎も言ったとおりに土用丑の日だ。

ひとり暮らしをしている俺がわざわざ実家に呼びつけられたのは特上うな重のためで、つい俺も釣られて戻ってきたけど家に入った瞬間に後悔!
あのババアとジジイめー!!!
両親は鰻を食べに出かけ、家にあったのは出前の特上うな重と弟の姿だった。
話しかけてくる朔兎を無視して俺は食卓につき、うな重を食べる。
食べ終わったら即行で帰ってやる!!

「うな重美味しそうだね。でもぼく、かば焼きになっちゃってるうなぎさんより、生きたままのうなぎさんがよかったなぁ」

山椒のきいた鰻を頬張る。

「たくさんのうなぎがいて、ぼくがそこに落ちちゃって。ぬめぬめって僕の身体にうなぎがまとわりついちゃって、洋服の中にも入ってきちゃって。ぼくのペニスにうなぎがまきついてきて、アナルにもうなぎのあたまがぐりぐりって、入ってきちゃって。いやぁってぼくが泣き叫んでも触手になっちゃったみたいなうなぎにぼくは責められちゃって、そんなぼくを見ながら勃起しちゃったお兄ちゃんはうなぎたちからぼくを救いだすなりぼくを四つん這いにさせて一気に」
「御馳走様でしたァッ!!!」

ごはんは諦めた!!
うなぎだけを口に詰め込んで、俺は家を飛び出すべくリビングの窓から逃走を図った。
以前玄関から出ようとして強固な鍵の前に脱出不可能で―――ああああああのときのことはいまでも悪夢に見る―――今回は同じ轍は踏まない!
いざ窓からだっしゅつー!とすばやく窓の鍵を開けて。
開け、開け……、え、鍵がねー!!!
あわあわと手が窓を滑る。
パニックになる俺の耳に、ふう、と吐息が吹きかかった。

「お兄ちゃんがなかなか帰って来てくれないうちにね、うち防犯対策で窓をはめ殺しにかえたんだよ? ……あ! はめ殺しっていうとちょっとエッチだね! ぼく今日お兄ちゃんにハメ殺しにされちゃうのかなぁ! どうしよう! うなぎって精力増強って言うし! お兄ちゃんもぼくもたくさん食べて、今日はいっぱいがんばらなきゃ!」

窓が開かない!
鍵がない!
なぜだなぜだなぜ―――……。

「いーっぱい楽しもうね? ね、おにーちゃん」

すり寄ってくるド変態ド鬼畜腐男子ガチホモの弟に、俺は断末魔の叫びを上げたのだった。


【丑の日編。おわり】

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