智紀×優斗(小説)
設定は、
ヤキモチ(無自覚)優斗で智優。智優設定含む(捺には二人共フラれている、何度か智優経験済等)
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そこを歩いて居たのは偶然だった。
何となく時間が出来たから、何となく本でも買おうかと思って。
それでいて何となく、たまには違う店でも行ってみようか……なんて思っただけで。
距離もあるし、あいつは気付いていないだろう。
むしろ、俺がこんなところに居るなんて思ってもないはずだ。
いや、そもそも俺の事なんて考えてないか……。
俺達は別に付き合っている訳じゃないし。
互いに好意を抱いている訳でもない。
かといってあいつを嫌い……と言う訳でもないけど、正直面倒だなと思う事は多々ある。
不本意ながら体の関係だけは進展してしまっていて、だからと言って今までと何か変わったのかと言われれば、そんな事はないと言える。
そう、言えるはずだ。
つまり先程から俺が何を言いたいのかというと……
彼、片瀬智紀が見知らぬ綺麗な女性と歩いていようと、そしてとても親密そうに話していようと、俺には関係がないって事だ。
「ゆーと」
「何?」
そして偶然とは重なるものなのか、あれから数時間たった今になって隣に居るこの男。
いや、隣と言うには語弊があるかもしれない。
正しくは、ソファーに居る俺の上に覆い被さっている、だ。
「その手どかしてくれないと、服脱がせられないんだけど」
「脱ぐ必要がないから押さえてるんだけど」
あの後も外をフラフラとしていたのは失敗だったかもしれない。
一緒に居た女性は帰ったのか、一人で居る智紀とまさか鉢合わせてしまうなんて。
「ここまで来といてそれはないでしょー」
「智紀が無理矢理連れてきたんだろ」
「うわ、酷い。なら、この状況でそれはないでしょー、かな?」
「智紀が無理矢理押し倒してるんだろ」
俺の言葉を聞いて智紀はクスクスと笑みをこぼした。
あーもう。
さっきから俺が何を言ってもまるで堪えない。
結局いつものあの手この手で智紀の家まで連れてこられ、一緒に食事を済ませたのはつい先程の事。
どうやらあの人と食事まではしなかったみたいだ。
いや、俺と食べている時いつもより食が進んでなかったし、もしかしたら軽く何かを口にはしたのかもしれない。
俺には全く関係ないけど。
「食事も済んだし帰る」
「何言ってんの。大事なデザートが残ってるでしょ。まぁゆーとは食べられる側だけど♪」
「…………」
ドカッと小気味良い音が響いた。
そして続いた、ドサッと何かの落ちる音。
何かは言うまでもない。
「ちょっ! 痛い! 今本気で蹴った!?」
「帰る」
もうため息をつく気すら起きない。
さっさと帰って、家でゆっくりしたい。
何だか今日は何も考えたくない。
わざとらしく体を擦っている智紀を放っておいて、俺は立ち上がろうとした。
のに……
「だから、まだデザートが済んでないって」
目敏く気付き、再びソファーへと戻ってきた智紀に引き留められる。
「俺は要らない」
「そっかー。でも俺は食べたいから、食べ終わるまで待って」
「やだ、帰る」
「だーめ」
「痛……っ」
かぷっと智紀が俺の首筋に噛みついてきた。
本当人の話を聞かないヤツだ。
「……智紀っ」
「はいはーい」
返事をしながらも行為を止める気はないらしく、じわりと痛みの走るそこを今度は舌で嘗めあげてきて。
むず痒いような、くすぐったいような感覚が、ぞくぞくと背筋を駆け抜ける。
「やめ……っ」
「ゆーと」
名前を呼ばれて、思わず智紀の方へ顔を向けると既に近付いてきていた智紀にそのままキスをされた。
「んぅ、っ」
そして驚いている一瞬の隙をついて、するすると手が服の中へと滑りこんでくる。
「…………っ」
直ぐ様探り当てられた胸の突起をきゅっと摘ままれて。
俺の体がピクリと、意思に反して反応する。
嫌になるくらい手慣れた手つき。
キスだって相変わらず上手くて、そんなつもりはないのに力が抜けそうになってしまうのがムカつく。
こうなってしまえば、結局智紀の思い通りの展開だ。
だけど、深く絡み合う唇に、肌を撫でる智紀の手付きに、体の力がふっと抜けてしまったんじゃないかって時、ほのかに甘い香りが鼻についた。
智紀のじゃない、女物の……。
ああ、嫌だ――って何故だかいつも以上に思う。
「……智紀、離せってば!」
口付けから逃れ、智紀の体をグッと押し戻すと、案外すんなりと離れていった。
いや、離れていいんだけどあまりにあっさりしていて逆に変な感じだ。
そんなに強く言ったつもりも、押したつもりもないのに。
そんな俺の考えを知るよしもない智紀は、心なしか楽しそうな面持ちで俺を真っ直ぐに見据えている。
「どうして?」
「どうしてって……俺は嫌だっていつも言ってるだろ。それに俺達付き合ってる訳でもないし、男同士だし……」
「ははっ、またそれ? だったら彼の時だって付き合ってなかったし、男同士だっただろ?」
「それは……」
俺は視線を落とした。
確かに、付き合っていないのに関係を持った事も、男同士の経験も何度かある。
でも智紀の言ってるのは、俺達が同じ人を好きになってしまった時の話だ。
「あれは……俺が勝手に好意を持って彼を繋ぎ止めようとしていたからで……あの子は悪くない」
あの時は俺が悪かったんだ。
一方的に繋ぎ止めた、独りよがりの関係。
結局二人共フラれて、互いに気持ちが実る事はなかったけれど。
でも今は気持ちも状況も違う。
俺達は、互いに好意を抱いている訳じゃない。
下心のあった俺が無理矢理始めたあの時の関係と違って、俺達のこの繋がりは何となく始まったものだ。
「ふーん」
智紀は俺の話に耳を傾けながら、スッと目を細めた。
「それなら、俺も勝手に好意を持って繋ぎ止めてるだけだから。優斗は悪くないよ」
そう言って再び顔を近づけてくる。
そして、頬や目尻などに何度も口付けを落としてきた。
その行為を続けたまま軽く肩を押される。
「何馬鹿な事言って」
「……冗談だと思う?」
トサッと小さな音をたてながら、俺はソファーに押し倒された。
あまりに馬鹿馬鹿しい質問だ。
女物の香りを纏わせて言い放った今の言葉が、冗談以外の何だと言うのか。
「当たり前だろ」
「でもさっきより抵抗しないんだね」
クスクスと笑う智紀に反して、俺は顔がカッと熱くなるのを感じた。
「もう、いい加減に――」
「早く俺のものになっちゃえば良いのに」
「っ、だから! お前は友達で」
「そんなにヤキモチ妬くくらいなら」
「…………は?」
智紀の言葉に俺は固まった。
ヤキモチ?
誰が? 誰に?
そんな風に考えてはみるものの、智紀の言い方からして、間違いなくそれは俺の事を言っている様で。
それこそ何の冗談だと言いたい。
こいつの考えてる事は、いつもいつも俺には理解が出来ない。
と言うかしたくない。
「ちょっと言ってる事分かんないけど、分かりたくないから説明はしなくていい。それより、いい加減どいて欲しいんだけど」
「さっきの人なら取引先の社長の娘さんだよ」
「…………」
「見てたんでしょ? それと……匂い、気になっちゃった? 結構キツめだったし、ちょっと移っちゃったのかなー」
俺は目を瞠った。
自分の鼻に腕を近づけ匂いを確認している智紀に、何も言い返す事も出来ず、ただ黙って見つめる。
結構離れた所に居たのに、まさか気付いてたなんて。
でも、取引先だか社長だか知らないけど、二人で一緒に居た事を俺に説明したからどうしたって話だ。
匂いだって、気にするも何もない。
俺には関係ないんだから。
「見た目良し、器量良しな挙げ句、独身だからこういう事たまにあるんだよねー。うちの娘をどうですかー的な? 断れる時は断るけど、今回の相手は結構大事な取引先だったからあんまり無下にも出来ないし……とりあえず食事だけですよってね。でもまさか優斗に見られて、ヤキモチまで妬いて貰えるなんて、智クン嬉しいなー」
「………………」
「で、他に何か聞きたい事ある?」
智紀は視線をこっちへ戻して、ふっと笑みをたたえた。
まるでこっちの考えてる事はお見通しと言わんばかりの得意気な顔をしてるけど、俺は別にそんな事に興味もなければ、聞きたいとも思ってない。
「そもそも説明はしなくていいって言ったんだけど」
そう言って顔を背けた俺の耳に、プッと吹き出す智紀の声が聞こえる。
「そうでした。じゃあそろそろ本気でデザートタイムにしよっか」
「一人でどうぞ」
と言っても、俺の言葉なんて当然の様に無視して、智紀は首筋に顔を埋めてくる。
「おい、やめろって」
「んー?」
今度は言う事を聞く気がないのか、智紀はお構いなしに俺の服を開いていく。
「智紀……っん」
そしていつまでも抵抗を緩めない俺を正面に向けさせたかと思うと、直ぐ様唇は智紀のそれで塞がれる。
ぬるりと滑り込んできた舌が口内を荒らし、濡れた音が部屋に響く。
角度を変えながら、智紀は俺が言いたい文句を全て飲み込み、逆に違うものを引き出していく。
「……ん、はっ」
ほんと、こいつのテクニックは厄介だ。
もう何度目かになるこの行為。
いい加減覚えてしまった智紀から与えられる快楽は、こっちにそんなつもりがなくても、嫌でも身体を熱くさせていく。
少しずつ、俺の服の中のものが窮屈なそれに変わっていくのを感じた。
一筋、銀糸を引きながら智紀が離れていき、
「ゆーと」
と、さっきよりも欲を滾らせた声音で呟いた。
少しぼんやりとし始めた頭が呼ばれた名前に反応して、俺は声のした方へ視線を上げた。
にっこりと言う言葉がいかにも合いそうな、そしていかにも胡散臭そうな笑みで智紀は俺を見下ろしている。
「好きだよ」
そしてその顔で言われた言葉。
それを素直に受け取る程俺もバカじゃない。
「冗談」
「じゃないよ」
「…………はぁ」
俺から勝手に出てくる大きな溜め息。
本気になんてしない。
今までだって何度か似た様な事を言われてきた。
だからって俺達の関係に変化はなく。
結局、今夜もいつもの流れってだけだ。
俺達は別に付き合っている訳じゃないし。
智紀はこんな事を言っているけど、本気で互いに好意を抱いている訳でもない。
かといってこいつを嫌い……と言う訳でもないけど、正直とても面倒くさい。
不本意ながら体の関係だけは進展してしまっていて、だからと言って今までと何か変わったのかと言われれば、そんな事はないと言えていた。
そう、言えていたはずだ。
でも、もしかしたら……
彼、片瀬智紀に俺は思った以上に振り回されてるのかもしれない。
俺からは諦めの感情が沸々と湧き上がってくる。
「……もう、わかったから。さっさとヤるならヤれよ。早く終わらせて寝たい」
「素直じゃないなー」
「うるさい」
智紀はいつも通り楽しそうな面持ちで、俺はいつも通り流されて。
お互い色々言い合いながらも、濃密な夜が更けていく予感がしていた。
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きゃー//
智優智優ヽ(^o^)丿
というか、なんかもう私書かなくてもみぃゆーさまにすべて委ねても??な気分です♪
すっごく智優!優斗可愛いw
萌えですvありがとうございます!