思い出せない夢の中で。


暗い室内に響くのはベッドの軋む音と荒い息遣い。
俺の上で腰振って、猛った半身を自ら扱いている痴態を下から見つめる。
恍惚の眼差しは俺を捉えてはいなくてどこを見ているのかさえ判別できない。
先走りが俺の腹にまで伝い落ちてくる。

「ン……っ、ぁっぁ……っ」

普段は絶対に見ることのできない快楽に染まった声と表情に俺は下から激しく突きあげた。

「ひっ、ぁッん、っあ」
「……委員長」

囁けば学園中の生徒から恐れられ校内にはびこる同性愛をすべて根絶やしにしようとしている風紀委員長の塔野はようやく俺に視線を落としイヤだというように首を振って後孔を締める。
ぎゅ、と自然塔野の中に埋まった俺のもキツク締め付けられる。

『男同士なんて許されるはずがない』

冷たい目で風紀を取り締まっている塔野。
そんな男が俺の"男"を咥えこんで腰を振ってる。

「名前が、いい……っ」

俺の突きあげに合わせて腰を振る塔野はまた焦点をぶれさせて呟く。

「―――祐伍」

希望通りに名前を呼べば微かに口元を緩め、気持ちよさそうに喘ぐ。
手を伸ばして引き寄せて抱きしめてその唇を塞いで組し抱いて正常位で突きまくりたい。
俺の腕の中に拘束して俺だけを見つめさせて欲に溺れさせたい。
だが俺と祐伍の行為はいつもこの態勢だ。
祐伍の騎乗位、これ以外はできない。

『―――ひっ、やめろッ、お願いだから……』

親友の祐伍と身体の関係が始まったのはいつだっただろう。
ある日俺の部屋で祐伍が寝ていた俺の上に跨って腰を沈めた。
あの時の衝撃、戸惑い、喜び。
だけど俺がその身体を引き寄せ正常位でしようとしたら激しく抵抗した。
やめろ、とパニックに陥る祐伍がその最中で呟いたのはもうすでに卒業した上級生の名前だ。
そこで俺は―――気づいた。

「祐伍、ほら。腰もっと動かして。俺のこともっと気持ちよくしてよ」

腰を撫で上げれば祐伍は恍惚の表情で小さく頷き腰を一層激しく振る。
ぐちゅぐちゅと結合部から鳴り響くローションの音。
肌のぶつかり合う音。

「っあ、ん、あ、きもち……いいっ」

生徒たちから恐れられる風紀委員長が男に跨っているなんてことを知ったらみんなどう思うんだろう。
そして―――祐伍もどう思うんだろう。

「俺も気持ちいいよ」

繋がっているけど、俺のを受け入れているけれど上にいるのは祐伍だ。
トラウマを思い出させる正常位や後背位なんてできない。
抱きしめることもできない。
―――上級生に犯された過去がある祐伍にはこの態勢で俺を支配しながらの行為しかできなかった。

「しゅ、う……っ」

だけどそれでもいい。
こうして俺の名前を呼んで、俺で感じてくれてるんだから。

「んっあ、あ」

一際高い声が響いて俺の腹に熱い白濁が飛び散る。
そして同時に後孔でもイった祐伍の強烈な締め付けに俺も欲を吐きだした。
ゴム越しに、だけど。
肩で息をしている祐伍は満足げに目を細めて俺のとなりに沈む。
すぐに寝息を立てはじめる祐伍の頬をそっと撫でた。

「祐伍―――」

そしてキスを落として、後処理を始めた。
祐伍にも服をきちんと着せ、その身体をソファにまで運ぶ。
まるでなにもなかったように。
レイプのトラウマで同性愛を嫌悪し、なのに、同性しか好きになれない祐伍。
そんな祐伍が俺と関係を持っているのは本人は知らない。
たぶん、気づいてない。
夢遊病のように俺の身体を求めてくる祐伍はセックスして眠りに落ちて、そして目覚めたときなんにも覚えてないから。
寂しい。
けど、それでもいい。

「……好きだ」

そっとその耳元に囁いて、一回吐き出したのにまだおさまらない熱を吐きだすために俺はシャワールームに向かった。



[おわり]
 
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