ちょこれーと☆ほりっく
「くっそ、くせぇ!甘いっ!!」
甘いのが大嫌いな俺にとってチョコレートなんてもの悪魔の食べ物にしか見えない。
しかもチョコに生クリームが混ざってるチョコクリームなんてもううんざりする物体だ。
そんな大嫌いなものを――肌にぬってる俺。
え、変態?一般的には変態っていうかもしれないが…。
いや…確かに変態プレイとしかいいようがないがしょうがない。
何故って今日はアイツの誕生日だからだ。
前からアイツの誕生日には好きなものをくれてやる、とは言ってた。
そしたらアイツは
『チョコプレイしたい!あ、睦くんをケーキに見立てて生クリームとチョコまみれにして食べちゃうのもいいなぁ♪』
なんて言って。
だから――男に二言はない!かなり屈辱的だが、これでアイツが喜ぶのなら……。それに第一アイツは俺といるときよりも甘いもの食ってるときのほうが嬉しそうだし……いやそんなことは隣に置いておいて……。
というわけで今に至る。
アイツはいま風呂に入っていて、もうしばらくしていたら上がってくるだろう。
ちなみに俺は全裸ではない。
とりあえず上半身に適当に……塗ってみてる。
なんかベタついて気持ち悪いうえに甘い。甘い、匂いだけでも死にそうだ。
口呼吸のみで酸素をとりこみながら見るもおぞましいチョコクリームを塗っていく。
口だけの呼吸をずっと続けていると息荒くなるな、と思いつつ必死こいてとりあえずは腕や胸に塗りたくった。
こ、これくらいでいいか?チョコクリームの入ったボールを傍らに置く。
背中は届かないからしょうがない。が、ワンポイントあったほうがいいかな、と鼻の頭にチョコクリームを絞り出し、完了とした。
アイツは喜ぶのか。きっと喜ぶよな?
ドキドキして口呼吸のまま待っていると風呂場から物音がしてくる。
そしてややしてドアが空いてアイツが戻ってきた。
俺は深呼吸をして、言った。
「藍、誕生日おめでとう!!」
「え?ありがと……え、ええ!?な、なにしてんの、睦くん!?」
目を輝かせるに違いないと思っていたアイツ――藍は驚愕の顔をしている。
「……なにって」
「それ……チョコクリーム?」
「そ、そうだ!」
「なんでまた」
「な、なんでって……だって」
だってお前がこの前、言ったじゃないか!
生クリームとチョコまみれって、だから俺は俺は―――……って言いたいけど言葉にならない。
ぽかんとしてる藍に、視界が歪む。
違う、これは断じて涙なんかじゃない!
これはこれは生理的な、大嫌いなチョコの甘い匂いのせいで!
「バ……バカ藍っ」
「……あ。もしかしてこの前俺がケーキに……とかなんとか言ったから?」
焦ったように藍が俺のほうへ駆け寄ってくるが、ムカついて顔を背ける。
「睦くん、でも甘いもの嫌いなのに」
「嫌いに決まってるだろ!」
「……うん」
「風呂入ってくる」
鼻呼吸も復活してしまい甘い匂いを吸い込む状況に頭クラクラするし、気持ち悪いし。
だんだんと自分がいかにバカなことをしたのかと実感してきて羞恥と虚しさに立ちあがろうとした。
だがすぐに視界が反転する。
背中にソファのスプリングを感じて、目の前に藍の顔。
「ごめんね、睦くん。でもありがとう。むっちゃくちゃ嬉しいよ!」
「……」
「ほんとだって!! びっくりしたのはさ、睦くんが甘いもの大嫌いだから絶対してくれないって思ってたから。だから――すっごくその分嬉しい!」
藍は満面の笑みを浮かべて俺に顔を近づけた。
地味に凹み気味の俺はキスなんかで誤魔化されるか、と顔をまた背けた。
だけど温もりを感じたのは口じゃなくて鼻だ。
藍を見れば、俺の鼻に塗っていたチョコクリームを舐めた舌が咥内に引っ込むところだった。
「美味しい!! このチョコクリーム、睦くんが作ったの?」
顔を輝かせ俺の身体に塗っているチョコクリームを指で掬い舐めては頬を緩ませる藍。
「そ、そうだっ。でも味見はしてないから味の保証はしないぞ」
「すっごく美味しいよ! ほんといままで食べたなかで一番甘くって美味しい!!」
にこにこと嬉しそうにしてる藍に少しだけようやく―――ホッとした。
「ふん。こんな甘いものが好きだなんて理解できないけどな」
「すっごく美味しいのになぁ。ほら、睦くんも」
あっという間に口が塞がれ舌が入り込んでくる。
俺が作ったチョコクリームの甘い味が藍の唾液とともに咥内に広がる。
不味い。
甘い。
「……っン」
甘い。
チョコの甘さとは違う甘さは―――嫌いじゃない。
次第にチョコの甘さは消えていってしまうくらいに互いの舌を絡ませ合った。
「あー……もうマジで幸せ」
キスの余韻にぼうっとしていると藍が笑って今度は俺の胸元へ顔を埋めた。
舌先がのびてチョコクリームを舐めとる。
くすぐったい感覚に身をよじらせると可愛い顔立ちのくっきり二重の藍の目が妖艶に瞬いた。
「全部、食べていいんだよね?」
「……っ。好きにしろ」
「やった! もちろん、ここにも塗って食べていいんだよね?」
悪戯に藍の指が下肢へ伸び、キスだけで反応してしまっていた股間に触れる。
「……勝手にしろ。きょ……今日はお前の誕生日なんだから。好きに食べればいいだろ」
でも今日だけだからな、と念を押すように言えば、了解と楽しげに藍が笑い俺の身体を舐めだす。
相変わらず甘い匂いに嫌気はさすが、それでも藍の舌が這うたびに甘ったるい刺激が身体を駆け抜け、チョコクリームのことなんてどうでもよくなってくる。
「あ、そうだ。こっちにもたっぷり塗ろうね? ローションのかわりに。こっちでもたーっぷり味わいたいからね」
慣れた手つきで俺のズボンを抜き取る藍はパンツ越しに俺の後孔をぐりぐりと押してきた。
「……は!? そ、そんなところまでか!?」
「そうだよー。全部、っていったでしょ」
「そうだけど……だが」
「睦くんの好きな言葉は?」
「……"男に二言はない"」
「さっき睦くんが俺に言ったのは? 俺に好きに……?」
「……食べればいい、と言った」
「というわけで、いただきまーす!」
いそいそとパンツを脱がせてくる藍に内心変態メ、と悪態つきながら俺はその夜大嫌いなはずの甘い匂いに甘く溺れていったのだった。
【おわり】
*おまけ*
「甘い! くッそ甘い!」
「そう? 俺は全然気にならないけどー」
「それにベタベタする!!」
「そう? 全部舐めつくしたし、お風呂でも隅々まで洗ってあげたのにー」
「甘い、もう二度とするか!!」
「えー。また来年もしてよ。あ、そのまえにバレンタインもあるよー」
「知るか!」
翌日。自分にまとわりつく甘い匂いに気持ち悪くなりつつ一日中ベッドで藍とふたり過ごしたのだった。
【ちょこれーと☆ほりっく:END】
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