先生、好きです。


「……あのー、真幸(ミユキ)くん?」
俺は大学2年。バイトは家庭教師で高校一年生の早良真幸くんという子を教えている。
週二回のバイト。
いつも通りやってきたら、その日は真幸くんの両親が急用で不在だと言われ、でもまぁ教えるのに不都合はないのでそのまま真幸くんの部屋で勉強になったんだけども―――。
10分休憩しようとなってベッドに腰掛けていたらいきなり押し倒され、いま現在俺の上には何故か真幸くんがいた。
「なに、どうかした?」
真幸くんはわんこ属性だと思う。
茶色のふわふわした髪と、ぱっちりした目と、170センチギリの身長。
性格は気さくで明るく、話も合う。
「先生」
真幸くんの目は真っ直ぐ俺を射抜く。
その目に俺の本能が危険を察知する。
―――これは、やばい、と。
いや、でもなぁ。
真幸くんはノンケのはずだ。
つい最近まで彼女もいたはずだし、男に興味ないはずだ。
真幸くんの家庭教師をしはじめてもう半年以上たつから確信できるけど、絶対ノンケだ。
つーか、最初にあった時点でわかるし。
だって……俺はゲイだから、だ。
同類は見ればわかる。
だけど―――いま俺を見下ろす真幸くんは明らかに俺にたいして恋情欲情その他もろもろ抱いてますよーというのをはっきりと表している。
な、なんでだ?
いままでそんな感じ一切なかったはずだ。
真幸くん越しに天井を見つめながら、シーツの感触を指に感じながら、考える。
「先生」
「あ、うん」
「先生のこと好きです」
「……」
直球。
直球すぎて、唖然と真幸くんを見返した。
「え、なんで」
「好きだからです」
「え、でも、俺、男」
「先生は"男"のほうがいいでしょう?」
「……」
え。
なんでバレてる。
「先生が男の人と歩いているの、見たことあります」
「……それはともだ…」
「キスしているところも」
……誰とした、俺。
あいつ? いや、それとも……。
「だから、僕ともキスしてください。付き合って下さい」
「……は―――」
いや、意味がわからん。
と、この状況を打破するべく、とりあえず真幸くんをどけようと手を伸ばした。
が―――その手を掴まれベッドに縫い付けられ、あ、と気づいた時には口を塞がれていた。
なんでってそりゃあ真幸くんの口でだ。
「……んっ」
ちょ、待て!
なんだ、なんなの、この子。
なんでこんな上手いんだよ!
しかも俺、変な声でたし!!!
「先生、かわいい」
顔を離した真幸くんが笑いながら俺の唇を指でなぞる。
「は? かわい……って、ン」
そしてまた塞がれ、真幸くんの舌が俺の咥内を這いまわる。
こ、これはヤバイ。
彼女が前いたのは知っているが、そっち方面には疎そうなイメージあったのに、なんだよコレ!!!
ていうかー!!!
「ちょ、ちょい待って!!!」
少し唇が離れたすきに顔を背けた。
「なんですか」
「あ、あのね、俺なんにも返事してないでしょー!!」
「なにか問題あります?」
「あるだろーが!」
いつもほんわかしている真幸くんだから、俺がいままで声を荒げることなんてなかった。
だから今怒鳴ったのが初、だ。
「気持ちいいことして俺のこと好きになってもらえららと思って」
「はぁ!? ……って、ン……ッ、どこ触って!!」
片手がシャツの中に入り込んできて、肌を這って来たかと思うといきなりビーチク弄ってくる。
おおおおおい!!!
ちょい待てっつーの!!!
「先生、好きです」
「わ、わかったから離れろ!!」
4つ下で見た目俺より非力そうなのに、なぜか力強くて真幸くんから逃れられないでいる俺。
「だめです」
「はぁ!!?? ……っぁ、ん。だから触る……なっ」
あろうことか今度は股間に手を這わしている。
なんだこいつ。
やばいやばい、やばいー!!
「わ、わかった、わかった!! わかったから、ストップ! 待て待て待て!」
必死こいて叫ぶと真幸くんはようやく手を止めてくれた。
「なんですか?」
「告白はとりあえず置いておくとして。あのな、ひとつだけ言っておくことがある!」
「はい、どうぞ」
「俺はぶっちゃけ、ゲイだ」
「はい」
「それで、俺はバリタチだ! 意味分かるか? バリタチっつーのはな」
「要は攻めってことでしょう」
「……そ、そう」
「それくらいわかってます」
「……じゃあ……」
真幸くんは……思わず見惚れるくらい可愛い笑顔を浮かべた。
それに不覚にもキュンとして、俺の雄が刺激される。
「心配しなくても、大丈夫です、先生」
「……そか」
なんで頷く、俺!
そうかじゃねーだろ、相手は生徒だぞ!
でも……ちょっとばかりぐらぐらと俺の気持ちが揺れている。
「ちゃんと優しくしますから」
「……」
だが揺れは―――おさまる、というか止まった。
「……は?」
「先生のバックバージンを俺が初めてもらうんだから、ちゃんと優しくて最高に気持ちよくしてあげますから」
「……」
「先生、好きです」
「…………ちょっと待―――」
思考を停止してたが身の危険にハッと我に返って制止したが遅く、また口を塞がれる。
そして。
「……んんんっ」
「先生の声かわいい」
違う違う!!
ストップ、待て待て待てー!!!
と、俺の心の叫びは虚しく―――俺は、俺は……。
「先生、大好きですよ」
甘い囁きに、不覚にもまたきゅんきゅんしてしまったのだった。


って、ちがーう!
俺の純潔ー!!





*おわり*


バリタチがノンケ年下に喰われるのもいいよね、と。
 
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