今日がその日だと知って、
それから直ぐに自分に出来る事を考えたけれど、





「……………くっそ、何にも浮かばないなんて…」

今エースは一人で森にいた。鬱蒼と茂る森の中でも一番の巨木の根元にしゃがみ込み、一人頭を抱えて悩んでいた。

「大体、そういう事はもっと早くに言うべきだろう…」

ぶつぶつと呟きながら思い返すのは今朝の出来事だった。





今日は珍しく朝からガープがやってきたのだ。しかも大量の食糧を担いできて、だ。
一体何事だ、と目をむくエース達を一瞥したガープは大声でルフィの名を呼んだ。

「ルフィー!!!何時まで寝てるんじゃ!とっとと起きろ!じいちゃんが来たぞ!!!」

家を壊すんじゃないか、と思う様な大音量の中、ぼんやりと目を擦りながら現れたルフィは、大量の荷物を抱えたジジイを見た瞬間に大きな瞳を更に大きく開いて驚いた様に言った。

「じいちゃん?何で?どうしたんだ??」

頭に?を飛ばしながらルフィがガープに近付くと、ガープはまた大きな声で笑いながらルフィの頭をその手で乱暴に撫でた。

「なんじゃ、大事な孫の誕生日をじいちゃんが祝っちゃいかんのか?!」

その言葉にぽかんと口を開けたのは俺達だけだった。ルフィは、と言うと目をキラキラと輝かせてガープに飛びついた。

「俺!今日!誕生日か!」

「やっぱり忘れておったか!」

顔を見合わせてがははと笑う二人に完全に置いてけぼりになっていた俺達は、次にルフィがこちらを向くまでその場から動くことが出来なかった。

「エース!」

ひとしきり笑い合ったルフィがガープから離れて嬉しそうにエースの元まで駆けてきた。ルフィの顔を見て何か言わなくては、とエースは考えたが、エースの口から言葉が出てくる前にルフィがエースの発言を遮って叫んだ。

「エース!俺な、俺、今日誕生日だった!」

すっかりと、今の今まで下手をすればガープが今日ここに来なかったらきっと忘れたままだったのだろう事が丸分かりのルフィの発言にエースはその場ではただそうか、としか言えなかったのだ。



そうして今ここに一人で森にいる。
今頃ガープに扱き使われながらダダン達はルフィの為の御馳走の準備を手伝わされているのだろう。エースは気付かれない様にこっそりとその場を抜け出したのだ。理由は明白だ。
ルフィの為のプレゼントを考える為だった。



「…でも、何をやればいいんだ」

今までに人に何かを渡した事なんて一度もない自分だ。ルフィに何をあげたら一番喜んでくれるのかエースには想像がつかなかった。

「…俺、あいつの兄貴なのに、」

脳裏に過ったのは眩しいルフィの笑顔と、その頭を飾る麦わら帽子だ。

「…!」

木の幹に思い切り右手の拳を叩きつける。
分かっている。分かっているのだ。自分にはルフィのかぶるあの麦わら帽子を超えるプレゼントなんて用意出来ないと言う事など、百も承知なのだ。

「…………」

むしゃくしゃしたまま立ち上がろうとしたエースの耳に草むらを掻き分けてこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。ハッとして振り返ったエースの視界にちらりと映ったのは、先程まで自分が悩ませていた件の麦わら帽子だ。埋もれる様に緑の中を掻き分けてくるその帽子からは、途中から自分を呼ぶ声も聞こえてきた。

「エースー!どーこーだー…―あ、いた!エース!」

ひょこりと麦わら帽子を押さえながら顔を出したのはルフィだった。

「探したぞ、エース。そろそろ準備終わるから呼んで来いってじいちゃんが…」

「ルフィ、」

ルフィの言葉をそこで止めたエースはルフィに向き合ってから一度唾を飲みこんで、そこで重い口を開いた。

「…お前、今、欲しいものは、あるか?」

あれからずっと考えていたが、さっぱり浮かばない。エースはプライドを捨てて本人に聞くことを選んだ。兄貴らしいことをちっともしてやる事が出来ていないが、こういう時くらいエースはルフィの兄でいたかった。

「…ほしいもの?」

「お前、今日誕生日だろう?」

「おお!そうか!」

「だから、」

「ないぞ!」

「……………は?」

たっぷり5秒程固まってからエースの口から出てきたのは間の抜けた声だけだった。

「だから、ないぞ!俺の欲しいもの!」

それはそんなに嬉しそうに言う事でもないのだが、エースは固まった思考回路の為にそれに対してつっこむ事は出来なかった。依然嬉しそうに笑いながらルフィがエースの名を呼ぶ。その声につられてのろのろと顔をあげたエースの瞳にルフィの綻ぶような笑顔が映った。

「俺はな、エース。自分で欲しいって思ったものは自分で手に入れるからいいんだ。それに今は本当に欲しいものは無いから」

「ルフィ、」

弟の名前を呼ぶしか出来ない自分にルフィの本当に嬉しそうな声が重なる。

「エース、俺な、ついこの間まで欲しかったものがあってな、」

「でも、それはもう手に入ったから、いいんだ」

ルフィが欲しかったもの。その事に気付けなかった事を悔しいと思いながらエースはルフィを見た。

「お前の欲しかったものって何だ?」

今年は無理でも来年の為に、今ここでその機会を逃すまいとエースが真剣な瞳でルフィを覗きこんだ。
エースのその気迫に気付かないルフィでは無かったが、ただぱちりと目を開けてルフィは笑った。


「ないしょ!」


自分の発言にエースが目を見開くと同時にルフィはその場を駆け出した。背後から聞こえる自分の名を大声で呼ぶエースの声にルフィは零れる笑い声を押さえることなく口を開けて叫んだ。

「エース!置いてくぞ!」

「待て!こらルフィ!!!」



追いかけてくる足音にもルフィは焦ったりしなかった。どうせ直ぐに捕まってしまうのだ。でもそれをもう少しだけ延ばしたい。視界を覆う麦わら帽子の端をぎゅっと掴んでルフィは走る速度を上げる為に走る足に力を込めた。





亀の背に花を飾る

100505
……………………
船長、お誕生日おめでとうございます!
思いっきりネタばれですみません。
本誌の兄弟が痛すぎて何も書けなかったんですが、今日くらいは…と思って書いてみました。そして泣きそうになりました。
弟の欲しかったもの。
うああああん(大泣)


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